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第3章 フリースクール編

 

犬がきっかけで引きこもりを克服

《ニュースタート事務局》二神能基

 

不登校期間 中学3年7月〜16歳10月(約2年間) 15歳女子

 

《家族構成》

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当事者について

現在18歳の加藤純さん(仮名)が私たちの活動にかかわり始めたのは、昨年の春、彼女が学校に行かなくなってから2年半経過した17歳の頃だった。

両親と2つ下の妹の4人で暮らす加藤さんは、もともと明るく、思ったことをはっきり言うタイプの少女。家族仲もよい。バドミントン部に所属し、友人たちと楽しい学園生活を送っていた。

しかし中学3年生の夏、クラスの男子のからかいの対象となり、バイキン扱いされたことをきっかけに人間不信に陥った。ことに、ある男子に言われた「こんなヤツ人間じゃない」というひと言に、張りつめていた心の糸が切れ、登校できなくなった。以来、一日中ほとんど家に引きこもり、家族と信頼できる何人かの友人とのみ、かかわりを持つ生活を続けていた。卒業証書も自宅で受け取った。

 

―経過―

犬が与えてくれた夢

中学卒業後の1カ月間、両親は「学校へ行こう」「高校くらい出ろ」と純さんに口うるさく言い、ある時は、「東京に行こう」という口実で病院に連れて行こうとした。しかし、純さんは頑として動かず、両親はその後何も言わなくなった。そして、かわりに1匹の犬を純さんのペットとして買い与えた。散歩、えさやり、毛の手入れ。犬の世話いっさいが純さんの引きこもっている間の仕事となった。犬の買い物のために外出し、犬のことを語る新しい友人もでき、世界が少し広がった。犬のおかげで、純さんの引きこもり生活はある程度安定した。しかし、新しい人間関係を作ることが必要とされるような場へ一歩を踏み出すことはできなかった。

だが、やがて純さんは「トリマーになりたい」という夢を抱くようになった。そして、このままでいてもしょうがないと思うようになり、資格を取るために外で勉強したいと、両親に思い切って告白した。結果として、犬が彼女が家から出るきっかけを作ってくれたのである。

両親は、すぐさま中学の担任に相談し、中卒の資格しかない彼女の新しい学びの場を探した。そして、ニュースタートの主催する大検の勉強会の案内を見て、純さんは私の所に面接に来たのである。それが昨年の春、最初の出会いだった。

 

 

 

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