俺はこの日本人にちょっとばかり興味を覚えた。
「サムライは無愛想な奴が多いけど、この国の市民はけっこう陽気じゃないか」
「いや、日本人は家の中や大勢の仲間が一緒のときだけ陽気なんだが、彼は例外だな」
ラスの言葉はどこか皮肉めいている。
ほどなくして踊る男は広場に到着した。汗を拭った男は、着物の乱れを直している女たちをうながして拝殿に近づくと、懐の財布から大きな金貨を取り出して寄進箱へ投げ入れ両の手を合わせた。
それから背後の女たちを振り返り、
「おおけにご苦労さん。さ、あしこの茶店で旨いもんでも食べようかい」
とにっこり白い歯を見せた。
「わーっ、行こ行こっ」
若い方の女がとたんに元気な声で応じ、男の片手を引いて先に立つ。店頭でめざとくこの上客に気づいた茶店の親父が、もみ手をしながらぺこぺこ頭を下げている。
「おいでまっせ、おあーがーまっせ!」
男は入り口で何気なく足を止め振り返った。俺の目が男の視線と重なった。
男はにっこり歯をみせて笑った。俺の頬にも素直に笑みが浮かんだ。すると彼はすたすたと俺に近づいてきてふわりと話しかけた。