俺たちはその様子を広場の片隅から眺めていた。警護のサムライ四人は少し離れた所から我々二人を遠巻きにかこみ、近くに居るのは若い通訳のタキチロひとりだった。
そのとき、石で造られた柵にもたれて石段を見下ろした俺の眼に、奇妙な参拝客が登って来るのが見えた。
その男は俺と同年配ぐらい、そう四十歳程度だろうか。腰に刀を差していないところを見るとサムライではなさそうだ。日本人にしては大柄で肉付きもよい。やや小さな眼と薄い眉が温和な人柄を印象づける。だが浅黒い肌は長年の潮と太陽で焼けた色だ、と俺のような船乗りにはひと目で知れた。
男は二人の女を連れていた。女は二人とも目立つ化粧をして高級そうな衣装を着ているが、出島のオランダ人がたびたび招く傾城と呼ぶ娼婦とは異なる健康さがあった。
「彼女たちは料亭と呼ばれる高級レストランのホステスさ」
俺の視線に気づいたラスが横から口を出した。しかし俺の眼は女よりも先頭の男に釘付けになっていた。その男は口のなかでなにごとか唱えつつ、石段をリズミカルに踊りながら登ってくる。少々酒が入っているのか踊る身振り手振りは剽軽で見るからに楽しそうだ。
俺は子供の頃に見たインディアンが狩の前に踊る踊りを思い出した。二人の女も男に続いて小さく手足を動かしているが、周囲の注目に気づいたのか、少々恥ずかしそうな表情を見せている。しかし男は周りの眼を少しも気にする気配もなく無心に踊り続けている。