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第2章

「ケアする人のケア」の現在

 

報告1-1

障害のある人や高齢の人と共にある家族のケア

向野幾世 KOUNO IKUYO

 

1 本人・家族の心の道すじ―「障害の受容」

障害のある子どもの誕生により家族が、この子はどうして大きくならないのか、あるいは事故や病気の人がこれから先どうなるのかという不安な感情は、医師から病名や予後を告知された時のショックに変わる。ショックを受けつつあきらめない。やがて治るであろうと病院や治療者をまわるだけまわる。ドクターショッピングともいわれるこの時期を否認時期という。しかしどの治療者、病院、あるいは信仰の末にも、その事実、事態を認めざるをえず、混乱の時期に立ちすくむ。そして「どうして私の人生にこの出来事はやって来たのか」と怒り、あげくは無気力、無感動な状態になる。すべてが、わが人生に必要で、必然で、ベストなことが起こっていたのだと受容するのは、こうした過程を乗りこえた後なのである。障害に相い対するための準備期があり、自分の状態を受容する。そして、家族への、また社会への自分の役割をしっかり把握するこの時期を、「受容」ということにしたい。

さらに「受容」という言葉の意味を読みとるとき、障害の重軽とは別に、そのありようは、あるがままにして、単に受け容れたという以上に力強く、積極的なものであることを知っておきたい。

以上は、あまりにも大づかみな言いようであったという反省から、パール・バックの『母よ嘆くなかれ』のなかに、もう少し丹念に検索してみる。アメリ力の女流作家パール・バックは『東の風・西の風』『大地』『分裂せる家』などの小説を記し、ノーベル賞をうけた。彼女の一人娘キャロラインは、3歳になっても話せなかった。最近フェニールケトン尿症ではなかったかと判明したようだが、当時は「決して大人にならない子」として育てざるをえなかった。後年、母としての心境を記したのが『母よ嘆くなかれ』である。

 

 

 

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