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図1 岩手県水産技術センターの定期観測点:測線は北側からそれぞれ、黒埼ライン、トドが埼ライン、尾埼ライン、椿島ラインと呼ばれる。図で黒丸は沿岸定線、+印は沖合定線を示す。観測は1963年から実施されているが、沿岸定線では月1回の割合で、沖合定線では夏季に限り年2〜3回程度の海洋観測が行われている。

 

このような形状は、顕著な水質変化が起こったことを示唆している。Hanawa and Mitsudera(1987)は、三陸沿岸域での水塊の分類をTSダイアグラム上で行っているが、その図の上に最高密度の水が見出された測点の各標準層の値をプロットすると図3(バツ印)のようになる。観測値は津軽暖流水のドメインの直下低温側に現れており、この水が津軽暖流水の冷却によって造られたことを強く示唆している。

この海域での最高密度の水の出現は通常2月であるが、表層に一様な混合層ができるのは1月で通常2月には有意な成層構造が現れる。おそらく12月まで存在する津軽暖流によって運ばれた高塩分の水が冷却されて高密度水が1月に生成され、それが活発な表層の混合を引き起こすのであろう。気温が最低になるのは2月であるが、この時期には低塩分の親潮系水がひろがっており、冷却されても高密度水が生じ得ないのであろう。亜熱帯域と異なり、亜寒帯域のような寒冷域においては、海水の密度を決定する要素は水温よりも塩分である場合が多い。表面冷却を通して暖かい海水が中層に沈降していく現象はオホーツク海の宗谷暖流においても観測される。三陸沖の海域は親潮・津軽暖流・黒潮系の水が境を接し、複雑に入り組み複雑な海況を呈している。黒潮系水のこの海域での動向は、続流域から切離される暖水塊を除いては、余り論じられていない。しかし、黒潮水は津軽暖流水よりもはるかに高温・高塩分であって、冬季の表面冷却や周辺水の混合による変質を受けて、三陸沿岸海況に大きな影響を与えていると考えられる。そこで、岩手県水産技術センターの最近25年間の観測資料をもとに、三陸沿岸域での黒潮水の出現現象について調べたので、報告する。

 

2. 三陸沿岸域での水温・塩分値の出現頻度分布と高温・高塩分水

1971年から1995年までの25年の期間に、岩手県水産技術センターで測られた全ての水温・塩分の観測値をプロットしたものが図4である(永田・鈴木、2000;Nagata et al、2000;吉岡ら、1999)。この解析資料には、沿岸観測定線だけでなく、夏季に黒埼および椿島沿岸定線をさらに沖側に延長した形で実施される沖合定線(図1で+印の点)のデータも含めている。

 

 

 

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