三陸沿岸海域への黒潮系水の侵入について
永田豊
小熊幸子
鈴木亨
渡辺秀俊
山口初代
高杉知
ながたゆたか:海洋情報研究センター
おぐまさちこ:海洋情報研究センター
すずきとおる:海洋情報研究センター
わたなべひでとし:三洋テクノマリン(株)
やまぐちはつよ:三洋テクノマリン(株)
たかすぎさとる:岩手県水産技術センター
三陸沿岸に流入した津軽暖流水は、その高塩分性のため冬季表面冷却によって、北太平洋中層水に匹敵する重い水を造りだす。黒潮水はさらに高塩分であり、その侵入は海域特性に大きな影響を与えると考えられる。岩手県水産技術センターの最近25年間の観測資料をもとに、この海域での黒潮系水の侵入について調べた。
1. はじめに―三陸沖の海況と冬季高密度水の生成
三陸岸に沿って南下する津軽暖流は、一般に夏季から秋(7月〜11月)にかけて強く、通常は12月においても南下傾向が認められる。1月には明確な津軽暖流は認められないが、かなりの津軽暖流系水がこの海域に滞留している。しかし、2月頃には水塊の交代が行われて、三陸沖はほぼ親潮系の水に覆われることになり、水平的にコントラストの小さい状態となる。この状態は津軽暖流が再び現れる5月末頃まで持続する。
対馬暖流水に起源をもつ津軽暖流水は亜熱帯系の水であって、亜寒帯起源の親潮に比べて高温・高塩分であり、三陸沖の海況を決める1つの大きな要素である。津軽暖流水の終末に関する研究は非常に少ないが、この水は亜熱帯黒潮域に戻ること無く、切離暖水塊を形成して東方に運ばれることも無いようで、三陸沖で消滅してしまう。永田豊ら(1993)は、岩手県水産技術センターの定期沿岸観測線(図1:黒点)の資料を用いた解析から、その消滅の1つの機構として、津軽暖流水がその高塩分性のため、冬季の表面冷却により北太平洋中層水に匹敵する高密度の水となって沈降する現象を指摘した。高密度水の出現の一例として、図2に1986年2月における100m層の水温・塩分・密度(σt)の水平分布を示す。高密度水の中心の測点(尾崎定線、岸から6番目の測点)では、10m・100m層でともにσt26.9を、300m層ではσt27.1を超す重い水が観測されており、このσtの値は北太平洋中層水の典型的な値26.8よりも大きい。面白いのは、図2で水温・塩分の分布形状に顕著な差があり、南西向きに沖側から延びた低温の舌状部と、北西向きに延びた高塩分の舌状部の交点にあたる部分に高密度水の中心が存在していることである。