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本稿では、このような過去の津波の特異点の実例を述べ、それが海底地形をデータとした理論的数値計算によってどう説明されるかを述べてみたい。

 

北海道南西沖地震津波に現れた津波特異点

1993年7月12日の北海道南西沖地震の津波では、奥尻島の南東部、初松前で津波による海水の浸水高さが13.2mの標高に達した。また北海道本島の海岸では、熊石町・北桧山町の境界にあたる尾花岬と、瀬棚町・島牧村の境界にあたる茂津多岬で、ともに津波の浸水高さが10mを超え、この2点が津波の特異点となった。おのおののようすと、それらの点が津波の特異点となった理由について考察してみよう。

 

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図1 北海道南西沖地震(1993)の津波による奥尻島の津波による、集落別の死者+行方不明者合計(人)

 

1. 奥尻島初松前の津波特異点

奥尻島最南端の砂州とそれに続く東側海岸の上には青苗の大きな市街地が広がっている。ここも約90%以上の家屋が流失するという壊滅的な津波被害を生じ、死者も105人を出した(図1)。青苗の市街地でいちばん被害の大きかったのは青苗5区とよばれる、最南端の砂州の上の地区で、ここだけで70人の死者を出している。この砂州の西側は、直接津波の波源となった地震断層の滑り面の海域に面しており(図2、3)、文字通り津波の第1波の直撃を真西から食らっている。われわれ(都司ら、1994)の調査によると、ここでの津波の浸水高さは12.4mに達している。

しかし、奥尻島を津波波源からみて「陰(かげ)」の側に当たる島の東側海岸では、津波の浸水高さが最高になったのは青苗ではない。青苗の北東約3kmの、松江地区の西端にあたる初松前というわずか20戸の集落が、東側海岸での津波の最高浸水高さを示す場所となった。ここでは、島の周回県道にそって家屋がならんでいたが、ベタ打ちコンクリートの敷地基礎を残して、その上の家屋本体は全戸根こそぎ流された。

 

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図2 北海道南西沖地震津波による奥尻島、および北海道本土の集落別津波浸水高さ(m)

 

 

 

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