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バンコク地下鉄整備事業

大月喜雄*

 

1. 地下鉄事業の背景

タイ王国首都バンコクにおける都市内交通は、その9割を自家用車、バス等の道路交通に依存し、既存の未電化システムであるタイ国鉄の交通輸送分担率は1%にも満たない状況である。従って、近年の急激な経済発展に伴う交通量の増大は、慢性的な交通渋滞のみならず排気ガスや騒音等の深刻な都市環境問題をも招いていることは周知の事実である。

そこで、タイ政府は第7次国家経済社会開発計画において、バンコクの交通渋滞の解消及び環境対策は最重要課題と捉え、地下鉄整備事業の主体として、1992年にタイ政府首相府のもと、首都圏高速鉄道公社(MRTA: Metropolitan Rapid Transit Authority)を設立した。

 

2. バンコクの鉄道整備事業

バンコクにおける大量輸送交通マスタープランは、1995年にタイ政府首相府の陸上交通管理委員会(OCMLT)が策定した2025年までに全長238.1kmの鉄道新線を整備するものである。

現在、このマスタープランに沿ってバンコクでは大きく3つの事業が推進されており、既に完成された事業、途中頓挫した事業、遂行中の事業に分類できる。

これら3事業を以下に紹介する。

1] タナヨンプロジェクト(完成)

1992年にバンコク都庁(BMA)とタナヨン社を筆頭株主とするBTSC社(Bangkok Transit System Co. LTD.)間で、BOT(Build Operate Transfer)方式による30年間のコンセッション契約が締結され、道路上空の高架鉄道建設事業が開始され、昨年(1999年)12月に23.5kmの高架鉄道が開通した。しかし、現在は旅客需要が伸び悩んでおり、経営が悪化していると言われている。

2] ホープウェルプロジェクト(頓挫)

1990年にタイ国鉄(SRT)がホープウェル社(本社、香港)とBOT方式による30年間のコンセッション契約を締結して、60.1kmの建設が開始された。この事業は、既存SRT用地を活用した高架鉄道及び高速道路の建設運営事業であった。しかし、1997年のタイの経済危機を契機に建設資金調達の困難さに起因した意図的な工事遅延を理由に、タイ政府及びSRTはこの事業契約を破棄し、本事業は途中で頓挫している。今後、建設途中の一部高架構造物を活用して、どの様な事業に継続するのかタイ政府は検討中である。

3] 地下鉄事業(遂行中)

本専門家(筆者)が所属しているMRTAが事業主体として建設工事遂行中の地下鉄20kmの事業である。詳細は以下のとおりである。

 

3. 地下鉄事業概要

(1) 事業の特徴

本事業は、所謂上下分離方式にて建設がすすめられており、インフラ整備(駅・トンネル・軌道)はタイ政府・MRTAが整備し、運営に係る車両・電気通信設備及び25年間の鉄道運営・メンテナンスはコンセッション契約により民間企業が実施するところが特徴である。

このインフラ整備の資金調達は、当初6:4で円借款とタイ政府調達資金にて予定されていたが、1997年にタイを襲った経済危機の影響で、タイ政府側の資金調達が困難になったことから、タイ政府の請願により、現在は100%を円借款に依存している。また、本事業が環境案件に認められたことから、調達金利0.75%、40年間償還という条件の環境特別円借款の適用により、日本政府から多大な支援を受けている。

 

* タイ首都圏高速鉄道公社JICA専門家(派遣元:帝都高速度交通営団)

 

 

 

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