日本財団 図書館


1967年以来、メトロは10年ごとにSPMR内の出発地−目的地調査を行っている。1997年の調査では、歴史的な傾向が確認された。すなわち、交通機関による移動全体に占める公共交通の割合が減り、自家用車による移動が増えているのである。明らかにこうした変化は、低所得世帯の自家用車の所有が増加するにつれて、公共交通機関の低所得利用者が減っているためである。こうした動向の理由は多様であるが、おそらく自動車の性能が向上し運用コストも安いことと関係があるであろう。明らかに乗用車は公共交通機関より安くて早いのである。

バスと同じ路線を走る無認可バンの数が増えるにつれ、低所得者がメトロより自動車を利用することが増えた。このことは交通の全体像を劇的に変化させた。SPMRのバスサービスを悪化させ、バスの運行者と交通計画の担当者とに、止めようのないバス利用者の減少という難題を突きつけているのである。

徒歩による移動は全体の3分の1、平日の一日あたりのべ1,060万人と見られる。1987年から1997年の10年間にほとんど数は増えていないが、徒歩を選択する理由は変化している。非常に高い運賃も主要な理由とならないのは、「vale-transporte(交通券)」制度のおかげである。1986年に法律で定められたこの制度は、低所得労働者を対象とした補助金制度である。自宅から仕事場までの移動に、労働者は賃金の6%以上を費やす必要はない。超えた分は雇用主が賃金期間に必要な交通チケット(クーポン)を提供することになっている(税控除)。

さらに、SPMR内での学校の配置が改善された結果、学校まで近いから歩くというのが徒歩による移動の主な理由になっている。

 

車が増えると機動力(モビリティー)は落ちる

機動率は一日に人々がどのくらい移動しているかを示すものであり、平日に住民一人が平均何回動力による移動をするかで表す。SPMRでは、この数字が1977年から下がり続けている。1977年には住民一人あたり一日1.5回であったが、1997年には1.23回にとどまっている。こうした減少は大規模公共交通の利用者に顕著であるが、高所得の自動車ユーザーも機動力を失っていることになる。

交通渋滞は機動力の減少の原因となっているが、別の要素も関係している。SPMRは、現在、都市構造の大規模な再整理を行っている。サンパウロのビジネス地区にはほとんどの交通機関が集中しているが、1987年から1997年の間に人口が13%も減少した(総人口2千370万人)。同じ10年でSPMR全体の雇用が23.2%も増えているのに、この地区の雇用は1.4%しか増えていない。周辺のビジネス地区が力を付けてきており、商業活動が都市圏全体に広がってきているのである。ショッピングモールの数は驚異的に増え、住民の行動様式に明らかな変化が見られる。性別による機動率の変化の違いも明らかになっている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION