対向者が存在する場合の歩行速度と流動係数を表4に示す。対向者とすれ違うときのみ歩行速度が減少するものの、群集としての歩行速度は変化せず、通路幅が0.9m以上であれば流動係数にも影響がない。
通路中央に開口部を設け、23cm高さのコーミングの有無による流動係数の比較を行った実験結果を表5に示す。コーミングがある場合には、通路幅(1.2m及び0.9m)及びドア開口幅(0.9m及び0.6m)にかかわらず流動係数は2割減少する。
船体動揺時における人体移動係数の影響については、単独歩行者の歩行速度のみ実験を行った。動揺時における単独歩行者の歩行速度を表6に示す。通路においては、動揺がある場合には歩行速度は2割減少する。階段においては、のぼりは影響なく、くだりにおいて1割減少する。
7. 結言
現在のコンピュータの発達状況からいって、今後の避難経路安全解析はコンピュータによる人体移動シミュレーションによる解析が主流となるのは間違いない。IMOにおいても簡易解析手法から始めて、コンピュータ解析に移行するべく討論をしている最中である。
本委員会では、同じ船舶の避難経路図を使用して各解析手法の相互の結果比較を行うことにより理解がしにくくブラックボックスが発生しやすいコンピュータ解析を含めて、計算による解析手法の信頼性と限界について検討した。
その結果、避難経路と避難開始時間が固定であるとして、次の結論を得た。
○人体の移動係数(歩行速度、流動係数)が同じであれば、避難完了時間に大差はない。
○混雑(滞留)についても、発生場所はおおよそ同じ場所である。
○ただし、各グループ(又は各個人)の避難開始時間は、混雑の発生に大きな影響を与える。
また、船舶の特有条件である避難経路の動揺・傾斜における人体移動係数についても実験を行い必要なデータを得られた。そしてその結果を具体的な評価シナリオとその評価指標の草案に反映させた。
ご支援賜った関係各位に深甚なる敬意と謝意を表する。