総避難時間の計算は、「知覚時間:Awareness time (A)」「経路通過時間:Travel time (T)」「搭乗時間:Embarkation time (E)」「進水時間:Launching time (L)」の4変数からなる次式により示された。
A+T+2/3(E+L)≦60min (1)
(E+L)≦30min (2)
また、混雑状態の定義として、避難の経路又は空間における最大許容人密度を3.5人/m2としている。ガイドラインのAppendixには、経路通過時間の計算方法と共に人の移動速度と流動係数、および避難経路の実際の幅から人の動作のための隙間を差し引いた実効幅などが表として示されている。
4. 避難経路安全解析でなにを評価するか?
新SOLAS条約第II-2章第13規則第7.4項において要求していることは、次の「混雑の排除」と「柔軟性の確保」の2点である。
○実行可能な限り混雑(congestion)が排除されていること。
○充分な柔軟性(flexibility)が確保されていること。
ここで、充分な柔軟性とは、決められた避難経路が一部使用不能となっても、代替の経路を柔軟に選定、使用することにより混乱なく速やかに避難集合場所に集合することができることをいう。コンピュータ等の計算による避難経路の安全解析手法において、「混雑の排除」と「柔軟性の確保」解析する概略手順例は次の通りである。
(1) 乗員乗客の人員配置、避難経路など想定されたシナリオを作成する。
(2) 想定されたシナリオに従い、設計図面から判定できる通路の長さと幅、開口部の幅に関係する人体移動に関する係数(歩行速度、流出係数等)を使用して、避難開始場所から避難集合場所までの人体移動計算を行う。
(3) 計算結果から、避難者が集合場所に全員到着するまでの時間、各通路、開口部における混雑(滞留)の状況などを数値化する。
(4) 避難経路の柔軟性を検討するには、使用できない通路などを想定し、シナリオの避難経路を変更するなどにより、人体移動の再計算を行う。
計算による解析法において、数値化が可能な基本項目は以下の通りである。
○避難集合場所に全員到達するまでの時間。
○部屋の出口、階段入口、通路の合流点など設定されたノードにおける滞留者数。
基本的には、避難開始から終了までの各ノードにおける滞留者の時間変化等をみることにより、混雑の度合いを判断し、シナリオを変えて比較することにより避難経路の柔軟性を判断することになる。
5. いろいろな解析手法と評価結果の比較
各計算手法についての特徴を表1に示す。
ガイドラインと防災指針は、避難経路における計算を、部屋の出口、合流点、階段等の代表となるノード間で一度に計算を行うことから、「代表ノード間解析法」と分類し、群体モデルと個体モデルは、人の移動を時系列に沿って移動させる解析法であることから「人体移動シミュレーション法」と分類した。