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(解説)

 

船体腐食防食問題への境界要素法の応用

 

天谷賢治

青木繁

 

1. まえがき

腐食対策費および腐食損失は、GDPの約2%以上と言われ、日本では年間の腐食損失は約10兆円にもなる。船舶等の海洋構造物は、腐食の被害を受けやすい環境にあり、経済的な意味ばかりでなく、安全上にも防食および腐食の解析を行うことが重要である。

一方で、コンピュータの目覚しい発展にともない、工学のほとんどの分野で数値解析が広く利用されている。腐食防食工学の分野では、他の分野ほどには、数値解析は利用されてこなかったが、最近その有用性が認識されてきている。

本稿では、異種金属接触腐食1)およびカソード防食問題への境界要素法の応用について述べる。2)

 

2. 数学的モデルおよび境界要素法による解析手法

この節では、腐食解析の基礎となる均質溶液中の異種金属接触腐食およびカソード防食の順問題に対して数学的モデル化を行う。アノード側の腐食助長の程度はマクロ腐食電流密度の大きさから判断できる。カソード側の腐食抑制の程度は電位によって判断できる。電位が自然電位よりも卑であれば腐食は抑制されており、さらに防食電位よりも卑であれば防食は完全に達成されていると判断できる。したがって、異種金属接触腐食およびカソード防食の順解析は金属表面の電流密度と電位の分布を、分極特性を考慮に入れて求める問題に帰着できる。

解析対象の例を図1に示す。図中に灰色で示した領域Ωは、海水、化学溶液などの電解質(簡単のため、溶液と呼ぶ)の占める領域である。この領域におけるイオンの蓄積または損失が無視できると仮定すると、Ω内の電位φは次のラプラスの方程式を満足する。

κ▽2φ=0 (1)

領域Ωの境界をΓとしよう。境界Γはつぎに示す3種類の境界から構成される。

・境界を通過する電流の密度iが指定されたノイマン型境界Γn

・境界近傍の電位φが指定されたディリクレ型境界Γd

・金属との境界Γmoこの境界上(厳密にはこの境界近傍)では電位φと電流密度iの間の関係である分極特性が指定される。

図1の例では、海面は、電流密度iは0であるから、Γn"のタイプとなる。この他、絶縁物の境界および電流値が一定の電極はこのΓnのタイプの境界としてモデル化される。ディリクレ型境界Γdとしてモデル化される境界としては電位が指定される電極が挙げられるが、実際にこのタイプの境界を取り扱う場合は少ない。

以上のことから、支配方程式(1)の境界条件はつぎの式(2)〜(5)により与えられる(図2参照)。

i=i0 Γn上で (2)

φ=φ0 Γd上で (3)

-φ(≡E)=fA(i) ΓA上で (4)

-φ(≡E)=fc(i) Γc上で (5)

ここで、i0≡およびφ0はそれぞれ指定された電流密度iおよび電位φの値である。また、金属との境界Γmはアノードとなる金属表面ΓAとカソードとなる金属表面ΓCから成っている(ΓmAC)とし、fA(i)およびfc(i)をそれぞれアノードおよびカソードの分極曲線を表す一般に非線形の、実験により求められる関数としている。

 

※ 東京工業大学情報理工学研究科

 

 

 

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