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しかし、分散電源特有の大量生産、コスト低減、普及促進、そしてより大量な生産というサイクルの中で、なかなか普及へのトリガーがかからないできた。これに対し、自動車は成功した分散エネルギーシステムの典型例であり、この分野で燃料電池自動車が普及しはじめれば、電力システム分野でも十分な競争力を持つ。つまり、移動中は自動車のエンジンとして、ガレージでは電力系統につないで分散電源として働くのである。

燃料供給システムヘの条件の違いなどから、自動車搭載の燃料電池がそのままでは家庭用に使えないとしても、自動車用の小型燃料電池の大量生産が住宅用燃料電池の普及を促すことは間違いあるまい。また、既に商用機が売り出されているマイクロガスタービンがこの分野で燃料電池に先行することも十分考えられる。小型の汎用機械の普及速度は大型技術に慣れているエネルギー関係者には想像がつかないところがある。家電ではしばしば見られることであるが、自動車においても、米国の導入普及期の1910年から30年にかけての20年間では、その普及量は約20万台から2300万台へと爆発的に拡大した。たとえば3kWの家庭用燃料電池がこれと同じように普及したとすると、電気出力として20年間で60万kWから6,900万kWへの拡大ということになる。21世紀には、このような新しい分散型小規模電源の可能性に注目する必要があろう。

19世紀に発明された自動車と電力システムは、20世紀には別々に大きなエネルギー部門として花開いた。しかし、燃料電池を介して21世紀にはこの2つの大きなエネルギーシステムの流れが統合される可能性がある。勿論、燃料電池には燃料供給が必要である。当面は天然ガス改質のメタノールか水素が燃料となろうが、水素やメタノールの原料として、正味では二酸化炭素を排出しないバイオマスを利用することも可能である。また、いずれは原子力や自然エネルギーから生産される水素の利用も考えられる。二酸化炭素の回収処分が実用化されれば石炭を使っても良い。いずれにしても、分散的に配置される燃料電池への燃料供給のため、パイプラインなどエネルギー輸送ネットワークの構築が重要な課題となる。

また、分散型電源によって生産される電力のネットワークも重要である。負荷の平準化や信頼性の向上など多数の需要家を統合することによって得られるメリットは、エネルギー生産における規模の経済とは独立に存在する。したがって、電力生産技術において分散型電源が大きなシェアを持つことになっても、電力システムの重要性は不変である。むしろ、集中的な大型電源と組み合わせることで新たなシナジーが生まれる可能性がある。ただし、燃料電池や太陽電池など分散電源の多くは直流電源なので、パワーエレクトロニクスを活用した交流と直流のハイブリッドネットワークになる可能性が高い。

21世紀のエネルギーシステムは、このように分散と集中を統合する新たなエネルギーネットワークを目指してより大きく多様に展開していくだろう。

 

参考文献

Nakicenovic, N. et al. (1998):GlobalEnergy Perspectives, WEC/IIASA, Cambridge University Press

富館孝夫・木船久雄(1994):最新エネルギー経済入門、東洋経済新報社

山地憲治・藤井康正(1995):グローバルエネルギー戦略-地球環境時代の21世紀シナリオ、電力新報社

山地憲治(1997):いま、エネルギー科学からエネルギー学へ、ILLUME、東京電力、第17号、pp.33-48(1997)

 

 

 

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