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(解説)

 

ナホトカ号事故と老朽船の安全対策

池田陽彦

大坪英臣※※

 

1. IMOにおける規制の動向

平成9年1月に日本海で発生したロシア籍タンカー・ナホトカ号は、我が国に寄港せず、日本海を通過中に老朽化による船体強度の低下により船体折損油流出事故を起こしたものであるため、タンカーの構造の健全性を確保するための対策を国際的な枠組みで実施する必要があった。

我が国は、同種事故の再発防止を図るため、国際海事機関(IMO)に、老齢タンカーに関する船舶の登録国(旗国)による検査の強化及び寄港国による外国船舶への立入検査(ポートステトコントロール:PSC)の強化に関する提案を行い、その実現に向けて積極的に対応してきたところである。

これらの我が国提案については、IMOの各委員会等において審議がなされ、我が国提案が基本的に達成される方向で、関連規定の改正等が合意されてきている。

 

1.1 PSCの強化

このうち、船体構造の健全性に関するPSCの強化策については、次の内容の総会決議が平成11年11月に開催されたIMO第21回総会において採択された。

(1) PSCにおいては、船体構造の健全性に特に注意を払うこと。

(2) 修理等のため次の寄港地まで航行することを認める場合において、欠陥が是正されたことを確認するための手続きを明確化すること。

この決議により、今後、船体構造の健全性に関するPSCは、次のとおり実施されることとなる(付図参照)。

(1) 寄港国の当局は、PSCにおいて、船体構造の健全性に特に注意しつつ、安全構造証書、検査報告書等により、船体構造に関する旗国の検査が適正に行われ、かつ、その後その状態が良好に維持されていることを確認する。

(2) PSCを実施した当局は、旗国の検査が適正に行われていない場合や状態が劣悪な場合には、修理等必要な措置がとられるまで航行停止処分とするなど厳正な措置をとる。

(3) 修理等のためやむを得ず次の寄港地まで航行することを認める場合には、PSCを実施した当局は、次の寄港地の当局にその旨を通報し、さらに、その通報を受けた当局は、是正した措置をPSCを実施した当局に報告する。

(4) 次の寄港地に当該船舶が到着しなかった場合には、関係する当局は、警告の発出、船名の公表など、これらの船舶の修理等が確実に実施されるまで必要な措置をとる。

 

1.2 旗国検査の強化

船体構造の健全性に関する旗国検査の強化策について、一定のタンカーは、定期検査時に板厚計測を実施し、その結果を検査報告書に記録することが要求されているが、これを活用した旗国検査の強化策を、我が国から、IMOに提案しており、進捗状況は次のとおりである。

(1) 「板厚の衰耗限度」の明確化

船体構造の健全性の判定を容易にするため、検査報告書の板厚計測の記録の欄に「板厚の衰耗限度」を明記することをIMOに提案した。本提案は平成9年11月に合意され、平成11年7月1日から実施されている。

(2) 船体縦強度の評価

老朽化により船体強度が低下したタンカーの航行を防止するため、定期検査時に板厚計測結果に基づいて船体縦強度の評価を行い、その評価結果を検査報告書に記載することを提案している。

 

※ 運輸省海上技術安全局

※※ 東京大学

 

 

 

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