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(解説)

 

測定の不確かさ:その表現方法の国際ルール作り

今井秀孝

 

1. はじめに

もの作りにおいては、その「もの」(品物)の性質や機能を評価する際に、本来の目的に対する適合性を定性的あるいは定量的に評価することが要求される。また、自然界の現象や人間の健康・安全に関わる内容を扱う場合にも、対象に関する何らかの判断の方法が求められる。そして、このために、観察、鑑定、観測、分析、検査、検定、試験、測定、計測、計量等々、それぞれの専門分野に応じて発展・構築されてきた分野に固有の評価の手法や判断基準が活用されている。

しかしながら、近年のように学問分野間の接近や新たな領域の開拓に応じて、異分野間においても国際的に共通する解析・評価手法の開発が強く求められるようになってきた。その背景には、国際的に認知された普遍性・透明性のある公平な適合性の評価方法を導入することにより、分野や地域が異なるために生ずる評価の重複を避け、通商や貿易における技術的な障壁を低減・除去するための信頼性の高い共通的評価手法の開発が求められている現実がある。

現象やものの評価には従来から測定や分析によって定量化することが客観的な判断に結びつくとして、定量化されて得られたデータの統計学的な扱いが必要となり、ある仮説を前提とした誤差論が発展してきた。ところが、誤差、精度、正確さ、精密さ、ばらつきといったような用語には、日常的に使われるものが多く、分野や国によって異なる定義や解釈がなされていたこともあって、国際的にも少なからぬ混乱を生じていた。そこで、国際標準化機構(ISO)、国際法定計量機関(OIML)、メートル条約に関わる国際度量衡委員会、国際度量衡局(BIPM)など計量計測に関与する国際組織が中心になってこの混乱を軽減するための息の長い継続的な活動がなされてきた。最近では、これらの国際機関に加えて物理、電気、化学、臨床化学などに関する国際機関の協力を得て、計量計測の分野に共通するいくつかの国際文書が刊行されて、この分野のルール作りに大きな寄与を果たしつつある。

これらの文書としては、ISOやIEC(国際電気標準会議)の規格やガイドが活用されているのはよく知られている。このほかにも国際文書として、計量単位、用語に関するもの、測定結果の信頼性につながる「不確かさ」に関するもの、さらには適合性そのものに関するものもあるが、ここ数年の間に、品質システムの管理、環境監査、製造物責任、健康・労働・安全の確保などの観点から、はかる(測る、計る、量る)技術や、はかられた結果の信頼性を確認する基盤として、計測のトレーサビリティ(traceability:trace+ability)に対する要求と関心とが急速に高まってきている。

本稿では、このような背景を認識しつつ、計量計測の根本に関わる測定された結果の信頼性を評価・表現するための「不確かさ」の概念とその手法を紹介することとしたい。この内容が、多様化・複雑化・高精度化する現在の社会において、種々の分野に深く関わる基盤的技術としての測定結果の信頼性表現を統一する一助になれば幸いである。

 

※ 工業技術院計量研究所 所長

 

 

 

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