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しかしながら近年海上輸送量と建造隻数とのバランスは、韓国を始めとする新興造船国の台頭とともに日本の分担分は均衡から減少に向かい、試験水槽の稼働率は必然的に低くなっている。さらに数値計算手法により水槽試験の役割の減少があるとき、その費用対効用は冷厳な現実と向き合わざるを得なくなる。個々の試験水槽は個別の経営努力で急激な費用対効用の悪化を回避する努力がなされるであろうが、造船工業を取り巻く社会的構造が良い方向に変化しない限り憂鬱な予測は替わらないと思われる。

水槽試験を利用するにしろ、また数値計算による船型性能推測手法によるにしろ、船型開発が目的である研究課題は船型設計者にとり目的を達成するためには、どちらの方法でも良いことは確かであり、費用対効用の観点からその選択はなされる。重要なことは船型開発を行うべき対象船舶を見いだすことである。設計者、研究者には試験すべき船型が与えられることを待つしかない問題である。超高速船の開発に伴う船型開発の事例を思い起こすと、新しい概念による産業製品を創設する過程であったことが理解される。このような事例は最近非常に少なくなっているように思われる。かつてタンカーの巨大化、コンテナー船の大型高速化等の時代には、研究課題として船型開発は世界の経済環境変化に応じて豊富に与えられていたことが思い出される。

 

研究課題を与えられたものでなく、創り出す視点が必要であることは重々理解はできるが、戦略を構想し具体的事業として構成して行くことで試験水槽およびその周辺技術を生かして行くのは楽な作業ではない。約40年前の400m水槽とその当時の船型試験水槽の華の時代を組織の変革の時にときたま回顧してしまう昨今である。

 

 

 

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