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目的が明確に設定され、研究戦略の下に具体的事業として定義された研究課題に対して、一般的に目標のはっきりと定義されない研究開発、またはどこかに目標はあり今流行と見える研究であるが、研究者のなかで十分にこの目標が自覚されない場合には、要素研究または評価システムの構築の一要素システムという研究の方向をたどる傾向があるのではないか。

昭和40年代の始めタンカーの大型化、コンテナー船の大型高速化等、日本の経済構造が変化する中で船型開発の一技術要素としての水槽試験が大きな意味を持っていた時代、水槽試験に係わる要素研究は研究課題としてそれなりの位置を占めることが可能であった。しかしその当時、大型タンカー、コンテナー船が世界の経済構造の変化に対応しまたその変化を促進するものであるという意識は、周りの水槽試験研究関係者には無かったと思う。ましてやタンカー、バルカーの巨大化、コンテナシステム、液化ガス船、自動車運搬船等がどのような経緯で発想され、誰が建造計画の主体者であるかについてなどは全く考えたことのないことがらであった。しかしながらそのような最上流の世界ではないが、そのような船舶建造需要の多くの部分を担うことで世界のなかで地歩を築いてきた日本の造船界の輿望を担って試験水槽が主要造船会社に建設され、各主要造船所の船型開発はもっぱらそこで行われるようになった。この状況に合わせ船研の400m水槽は、研究戦略の具体的事業化のため先駆的船型開発、及びその周辺技術の研究に専念するようになった。

 

ある目的に合わせ船型開発を行うことは設計者が設計した船型が想定した性能を満足するかどうかをチェックする過程が必要であり、水槽試験はそのチェックの一機構である。したがって性能のチェックが設計者の満足できるレベルであれば、なるべく簡単に実行できるものであればよいことになる。船研の大型水槽(標準7m模型船)の試験と民間その他の中型水槽(3〜5m模型)では、その基本コストは異なり船型設計者の要求レベルがコマーシャルベースであることを優先するとき大型試験水槽のメリットはなくなる。大型水槽の運転コストの低減を図るか、また船型設計者が高いレベルの試験を要求するような船型を建造する状況が創出されることが必須となる。また船型設計者が必要とするレベルの情報がCFDのような数値計算手法で得られれば、試験水槽とのトレードオフがその費用対効用の比較で行われることになる。この場合数値計算手法により試験水槽での業務の幾分かが置き換えられることになる。

 

昭和40年代後半、日本において試験水槽は世界の経済構造の変化に対応する造船量の増加に対応してその需要が増え、主要造船所等に試験水槽が建設された。

 

 

 

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