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(巻頭言)

 

試験水槽雑感

足達宏之

 

あとから考えると随分と筋道の通った説明を付けることができ、あのときああすれば良かったと思われることは多い。昭和40年代の始めに船舶技術研究所に400m大型試験水槽が建設され、当時の皇太子ご夫妻のご来駕をいただき、ITTC(国際試験水槽委員会)が東京で開催され400m水槽のお披露目が行われたことを思い起こす。船舶技術研究所が国の機関としての国立研究所から離れて独立行政法人に近々移行するにあたり、この水槽の歴史とともに研究所生活を期を一にしてきた者として一抹の感慨を抱かざるを得ない。

 

造船研究においてはキャッチアップすべき先進国の技術開発、研究テーマが明確に見えなくなってから久しくなっているように思われる。だからといって新たにチャレンジすべき技術開発、研究テーマが気軽に飛びつけるものとして次から次に輩出している状況でもない。このような状況は、どこかに新規課題についてモデルがあり、これに追いつくことに専念することで心理的に平安を覚えてきた研究者に取り居心地の良くないものと云えよう。

観念的には、造船研究を世界的な視野のもとに戦略を構想し具体的事業として構成して行くことが重要であり、その中で研究課題を創設して研究戦略をまとめ具体的な研究事業として遂行していくことの重要性は理解できる。しかしながら具体的事業として構想し実行するにあたっては、様々な利害の錯綜するなかで政治的な駆け引きを駆使して事を成して行くことが必要とされる。このようなやり方が国際的な広がりで行われることが当たり前な世界と伍してゆくのは並大抵のことではないと推測される。

TSLに代表される大型高速船の開発、CIMSのような新概念の導入による生産方式の創造、FSA(Formal Safety Assessment)による技術・安全基準の評価と規則の導入等々は、上で述べた並大抵でない努力と創造性と政治力でもって具体的事業として研究課題が提出されているものであろう。

 

※ 船舶技術研究所 所長

 

 

 

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