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3-4 軍需造船分野

 

民需造船の急速な発展がオーストラリアの造船業界を変革していったことは前述のとおりであるが、軍需造船分野の再生も、業界に重要な影響を与えている。最近の軍需調達プロジェクトは、オーストラリアの海洋工学分野の能力および競争力を高める上で、大きなインパクトを与えた。地元業界による参画、新しい技術の移転、品質基準の向上、新しい経営スタイルや技術スキルの導入など、様々な好影響を業界にもたらしている。

 

3-4-1 軍需造船分野の推移

 

オーストラリアにおける艦艇建造は第二次世界大戦中にピークに達し、駆逐艦3隻、フリゲート艦5隻、コルベット56隻が建造された。戦後もオーストラリアは軍艦を製造したが、建造を行っていたのはガーデンアイランドとウィリアムスタウンの国営造船所で、海外調達を比較して国内建造はコスト競争力を失っていった。そのため、1970年代および1980年代初期にはオーストラリアの軍需造船業は衰退し、大型艦艇は全く建造されなかった。

しかし、その後、海軍をサポートする地場業界の育成のため、ANZAC級フリゲートおよびCOLLINS級潜水艦をオーストラリア国内で建造することが決定した。建造にあたっては、民間企業2社が選ばれ、固定価格契約における厳しい性能使用、性能不良に対する違約条項の契約への組み入れが図られた。

 

● COLLINS級潜水艦

南オーストラリア州のAustralian Submarine CorporationがCOLLINS級潜水艦6隻の建造を受注。これは、スウェーデンのKockums潜水艦の設計を基に、それよりかなり大規模な潜水艦を建造するもの。第一号の潜水艦の建造は1993年に開始した。契約では、建造の70%以上をオーストラリアで行うことになっている。

このプロジェクトには、100社以上のオーストラリア企業が関与し、さらに部品やサービスを提供する企業も多い。

 

● ANZAC級フリゲート艦

ビクトリア州ウィリアムスタウンのTenix Defence Systems社(元Transfield Shipbuilding社)が、ドイツのBlohm&Vonn社のMeko設計の艦艇をモデルとした、ANZAC級フリゲート艦10隻の建造を受注(8隻はオーストラリア向け、2隻はニュージーランド向け)。同社は、西オーストラリアで、太平洋パトロール船計画の船を建造している。

ANZAC級フリゲート艦のプロジェクトでは、オーストラリア・ニュージーランド産業関与契約(Australia New Zealand Industry Involvement Programme)により、契約金額の80%をオーストラリア・ニュージーランドで建造することになっている。さらに、オーストラリア・ニュージーランドで建造する際、コスト、納期、品質ともに海外調達と比較して競争力のあるものでなければならない、と規定されている。

 

この他に、オーストラリアDefence Industries向けのHuon級Minehunter船、鋼鉄製Hydrographic船2隻の建造も国内で調達が行われた。

こうした経験を経て、オーストラリアの軍需造船業も競争力を持ち直してきている。現在、造船業界の売上の40%は軍需造船によるもので、ここ数年、輸出も増えてきている。

 

 

 

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