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付録Cに載せた資料のように、この情報の多くは、既に、一般でも使用可能であるし、造船技師が利用することも容易である。他の多くのIMO決議が求める情報は、日常、造船所によって新造船試験中、あるいは、模型船から得られるところの船舶操縦性能に関係するものである。この決議を実施することによる安全上の利点は、既に利用できる操縦性能の情報に、船体沈下の情報を加えることで、最小限の労苦で多大の効果を得られることにある。

安全委員会は、1984年以降、合衆国領海内で運航される船舶の操舵室に正確な操縦性能の情報を表示することを求めてきたコースト・ガードに対し称賛の辞を送るものである。規則(33CRF164.35(g))は、国外、国内船を問わず、合衆国領海内を通航する総トン数1,600トン以上の全船舶に適応される。安全委員会は、コースト・ガードが決議に結び付く、多くの操縦性能についての情報を求めているけれども、船体沈下現象についての情報は求めていないと、述べておく。しかしながら、これらのコースト・ガード規則は、決議の採択前に既に、効果を見せている。即ち、全世界の海運業界に船体沈下の情報を表示することの重要性を初めて認識させた点である。

コースト・ガードは、船舶運航者にIMO決議の実施を推進するため、航行と船舶検査の通達(NVIC)7-89を発表したが、安全委員会の経験は、海運業界のNVICに対する反応、あるいは、本件で実証されたように、コースト・ガードによる追加対応もほとんどない、というものである。NVICに含まれる高尚な意図にも関わらず、船体沈下現象に関連した事件防止に役立たなかったのである。1972年港湾及び水路の安全規則(PWSA)の目的の一つは、合衆国内における船舶航行の安全と水路の安全とを改善することにある。船体沈下の情報の欠如は、船内での操縦性能の情報の欠如による危険と同様な危険を招くのである。それであるから、安全委員会は、PWSAの意図を実際に達成するために、コースト・ガードが、操縦性能の情報を求めている現存の規則を補足するものとして、船体沈下の情報を船内に備えることを要望すべきであると確信している。

安全委員会は、少なくとも深喫水船、高速力船には、船体沈下特性についての情報を船内に表示することをコースト・ガード規則で規定すべきであると考える。海運業界の船体沈下現象に対する認識は、主に、低速力(ほぼ12ノット以下)で運航される船舶に限られているので、船体沈下現象の情報を発展させ、船体沈下現象の結果が最も厳しくなる高速の船舶にも普及させて行くべきである。安全委員会は、船体沈下に関する規則の制定、普及には、年月が掛かることに気付いているところから、その間の対応としてコースト・ガードが、高速航行時の船体沈下量は一般に考えられている2フィートをはるかに超えた値であり、乗揚の危険性を大きくするものであることを、広く、衆知させるべきであると考える。

 

 

 

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