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表1に示したように、AUSSは、RR II(5回目の衝撃)に関し、上下移動量を確定することが出来なかったのである。

 

塗料片と剥取り鉄片の比較…NOAAの潜水夫から受け取った塗料片について、光学的顕微鏡と電子走査式顕微鏡(SEM)とによる横断面の検査が行われた。SEMによる検査では識別可能なエネルギーを発散する標本であれば、X線(EDX)スペクトルに感応するのである。EDXスペクトルは、どんな検査標本からでも主要な化学物質を識別することができるのである。例えば、総ての金属性の灰色標本には、主としてアルミニュームと塩素を含んでいることがわかる。同じ標本からはどれをとっても、それを構成する要素は、一定なのである。どの塗料片標本の色合いも厚さも似ていて、この標本はQE2からのものであることを示していた。

NOAAの潜水夫から受け取った金属片は、EDX分析に回された。両方の標本(QE2外板からと衝突した岩石からとの。)は、分析可能な成分としては、マンガンを含んでいただけの低度の鉄合金であることで一致していたし、外観も同一に見えるのである。

 

水力学的要素及び船体沈下…船舶が浅海域を航行する際には、船体沈下として知られる水力学的複雑な現象を経験することがある。船体沈下は、(A)船体が水中に低下する現象と(b)トリムと呼ばれる、船尾部に比べて船首部が上昇する現象との二つからなっている。船速の増加につれ、船体周辺の水位が低下(注21)し、その結果として、低下した水面とともに船体も下がるのである。そのことで船底と海底との間隔が減少するが、喫水(船底下面と海面との隔たり。)は変わらないままでいる。トリムの変化で船底と海底との間隔の、更なる減少が生じるのである。トリム変化の度合いは、船尾部が、航走波の頂にあって持ち上げられているか、谷にあって下がっているかで変わってくる。トリムの変化は、深海域よりも浅海域で顕著に現れる。船体が水中に低下する現象とトリム変化の現象とが複合すると、結果として、船底が浅海域の海底に抵触する危険性を増大させることになる。特に高速で航行するとその危険性は高くなる。

注21 浅海域においては、その水路の海底と船底との間が接近していことから、船底下の水流は、極めて大きな制約を受ける。

船底下の海水は、強い力がかかるので、海水の流速と運動エネルギー(動きを伴ったエネルギーのこと。)とが増大する。

系統内のエネルギーは常に一定であるため、運動エネルギーの増加を補う位置のエネルギー(運動からよりも位置の高さから生じる、系統内のエネルギーのこと。)は、減少しなければならない。位置のエネルギーの減少は、船体周囲の水面が下降することによって達成される。

 

 

 

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