日本財団 図書館


船体沈下現象の結論への考察方法…一船舶の船体沈下現象は、おおよそ速力の二乗に比例して増加する。QE2の場合は、ヴィンヤード海峡に入航したのちに、約18から24.5ノットに増速している。高速力と浅海域とが結びついた結果が、異常に大きな船体沈下現象の原因となったと考えられる。QE2のこの現象は、綿密に検証された。

安全委員会は、独立した二つの考察方法をもって、船体沈下現象の考えられる数値について考察した。一つは、QE2船体に残っていた損傷部の測定値を基礎にした直接的考察方法であり、もう一つは、単純化した数式を使って求めた計算値を基礎にした論理的考察方法である。二つの考察方法とそれによって得られた結果を次に示す。

 

直接的考察方法…QE2が乾ドック入渠中に撮影された損傷写真では、船首バウ・スラスター開口部に近い場所の船底上方少なくとも2インチ半のところに損傷があることが分かる。RR IとIIで見つかった塗料片と金属片、それとこの二つの岩石から受けた損傷を見れば、船首部の損傷は、RR IかRR IIで生じたものであることが十分に判断できる。NOAAの調査によるRR IとIIの上方の水深についての数値を使って安全委員会は、船体沈下量が4.6から5.2フィートの範囲であると推定した。

 

理論的考察方法…AUSS、NOAA両者の測定資料の差異を考慮し、安全委員会は、船体沈下量を推定するために、併せて理論的考察方法も使用した。この方法で安全委員会は、多くの参考文献(付録C参照。)から得られた方程式を用いて船体沈下量を計算した。この計算でQE2が水深40フィートの海域をほぼ24ノットで航走するときには、8フィートにもなる船底と海底との間隔の減少となる、大船体沈下現象が生ずる可能性のあることが判明した。QE2は、錨地と“NA”灯浮標との間では水深39から100フィート海域を航行していた。

船体沈下は、複雑な水力学的現象であり、特に、高速航行中の船舶にあっては、単純な法則だけで、正確な数値を予測するのは一般的には、不可能である。それでもなお、この単純な法則を使った概算値でも船体沈下現象が、今回の乗揚に重要な役割を担っていたことが分かるし、電子計算機による完全な船体沈下量の計算が必要なことが判断できる。その結果、安全委員会とコースト・ガードとが共同で出資し、デビッド・テイラー研究センター(DTRC)にQE2の船体沈下量の値を計算させた。その電子計算機の算出値について討論された。

 

電子計算機による計算…DTRCが行った電子計算機の計算によると、水深がそれぞれ50フィートの海域で、速力20ノットのときに8フィート、22ノットのときに15フィートの船首トリムが生じて、船体沈下現象が発生する可能性があることが判明した。DTRCの計算によると水深40フィートの海域では、速力18ノットで8フィートの船首トリム変化がある。DTRCの計算結果ではQE2は、12から24ノットの速力範囲内で常に船首トリムの変化があることが明らかになった。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION