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A138 人間生活は無視して、稀少種だけを守ればいいのか、という声をよく聞きます。これは誤解で、説明が不足しているのだと思います。その生物種を守ることが、短期的、長期的に海岸や沿岸の環境や生態系にどのような意味があるのかを整理することが重要なのです。稀少生物でさえ生きていくことができるような環境であれば、ベストに近い状態で保全されているわけですから、生態系として他の多様な生物が生きていける潜在力があることになります。そういった生態系の状態は、人間にとっての環境という点からしても、水産物や農作物としての利用、リクリエーションなどの対象として重要です。

 

Q139 日本での海と川の研究はどのような関係ですか?

A139 日本の海洋や河川に関する学問分野は細分化が進んでいて、統合的な議論が行われにくいのが現状です。例えば学会について考えると、沿岸生態系に関する学会としては、日本海洋学会、日本生態学会、日本水産学会、土木学会海岸工学委員会、日本ベントス学会などがあります。これらの研究コミュニティ間の交流は必ずしも活発でなくて、さらに河川に関する学会である陸水学会、土木学会水理委員会との接点も少ないのです。水陸のインターフェースだけでなく、海洋と河川のインターフェースの研究についても今後の研究体制の展開が期待されます。

 

Q140 日本の河口域はなぜ生態系が貧困なのですか?

A140 日本の河口域には、人間の生活域が広がっています。これは、米作や漁業などの利便性や、山がちの国土のなかで平地の部分ということで、集落が歴史的に形成されてきたためです。人間の都合に合わせて土地利用をやってきたので、河口が埋め立てのため平面的に、護岸のために垂直的にも直線的な形になっていて自然地形を残していません。例えば、河口砂州は生態系保全上重要なのにもかかわらず、航路維持浚渫(漁港、港湾)、河口閉塞の防止のための治水(河川)、堪水防止(水質保全)といった名目で、さっさと浚渫、掘削されることが普通です。こういった場所の生態系保全のためには、環境保全サイドだけでなく、行政的な縦割を超えての調整が必要となります。

 

Q141 日本に湿地が少ない理由は何ですか?

A141 日本は数千年間にわたって稲作を続けてきました。そのために、国土のなかで川の近くの自然に湿地になっていた部分がまず水田にされました。さらに、棚田などにみられるように水を引く工夫をして、田畑のための土地を広げて、少しでも作物を作る工夫をしてきました。人間が立って歩けないような沼地のような場所であっても、蓮などを植えて高度に利用している景色がいたるところで見られます。高度経済成長期ごろからは、水田がさらに住宅地、工業用地などに変わり、乾燥した平地とされました。このように、ただでさえ山がちの国土で平地が少ないところに、1億人以上の人口を抱え、あらゆる土地利用をしているという自然だけでなく歴史や文化が背景にあるためです。

 

 

 

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