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オペラは現実の鏡とは言わないけれど、あるデフォルメされた現実なわけだから、やはりそこに来るときに積極的に来るし、そこで味わうにも結構積極的な味わい方もあるだろう。オペラを作るボクらももっと積極的な何か、気取った言い方をすると“他人づくり”が必要だと思う。共働者ばかりでなく観客というものに対しても、オペラが意識的に距離を作っていこうとしていいじゃないかと思う。暖かくて幸福な楽しい空間を作るだけではなくて。違和感がちょっと現実を震えさせるとか、自分の背中を見てしまう、とか。観客とどうコミットするか、観客と一緒になるか、観客を作っていくか、ということをオペラの作り手が考えていけば、展開点はあるし何でも出来ると思っている。19世紀的なオペラはあまりいじれない、と言うけれど、現実をどのあたりにおいておくかということを気にしたやり方で、結構そのまま使っても出来るような気がする。

串田 そういう制約の中で、どのくらいの可能性があるかということだと思う。その制約の中に、逆の可能性が見れるかもしれないわけでしょ。

加藤 自分がどういうふうに音楽と現実との関係を結ぼうとしているのか、という視点を持たない限り、音楽はこうですという暗黙の絶対性があるような気がする。それに単純に盲目的に従ってしまうとがんじがらめになる。音楽から自由になりながら、それでまたその音楽と刺激的にかつ丁寧に使っていくということに戻ってくれば、違うのではないかと思っている。

串田 僕も今回オペラに引っ張り込まれて、何かそこから見つけられることがきっとあるだろうと楽しみで、またもうちょっと付き合おうと思っている。ああそういうものか、というものをオペラの中に見つけられるだろうな、という気がしている。

 

(2000年11月6日 都内・稽古場にて)

 

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