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これからの「オペラ」の可能性

加藤 サムが音楽を演劇の大事なモチーフにするのはどうして?

串田 ある時期からみんなウォークマンで音楽を聴くようになったけれど、最近はあの頃より聴いている人は少なくなっている。つまり、音楽というのは鼓膜を揺らすだけのものではないんだ。五感でいうと聴覚だけではなくて、全感覚で味わうものなのだと思う。音楽というものは、空間や場所やその瞬間だ、と思ったときにとても演劇的だと思って、なるべくテープから鳴る音より生演奏、もしくはわざとカセットデッキを置いてチープなスピーカーから音楽を流しているというのを見せるような使い方をする。

加藤 やはり、空間を欲しているんだ。

串田 音楽には空間が必要だ、そういうものであると思っている。だから文化村のシアターコクーンでやっていた頃も“音楽は限りなく演劇的、演劇は限りなく音楽的”というキャッチフレーズをつけていた。

加藤 ピーター・ブルックが、フォルムのことでこんな事を言っている。シェイクスピアは限りなく面白い、それはなぜかというと韻文を自由に使っていてそれ故に役者が余計なことをしなくて済む、というか変に“らしく”振る舞わなくても大丈夫なんだ、と。そう考えると、音楽も“強制された”フォルムなのではなくて、余計な演技をしなくて済むんだ、というところに持っていけるといいなと思う。即興から何かを立ち上げる時には何でもありなわけで、そこから生まれるリアリティがあるけれども、ある強制されたものから逆の“らしさ”みたいなものを生み出す、ということも出来なくはないと思う。

串田 日本のこれからのオペラの可能性、こうだといいな、と思い描くのは?

加藤 音楽は空間を欲する、必要なんだという話があった。それから、歌というのは聴く人間が必要だ、ということだと思う。

 

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コロス衣裳テザイン画/串田和美

 

 

 

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