◎対談
「オペラ」をめぐる対話
加藤直×串田和美
―加藤さんと串田さんは、同世代で小劇場運動がおこった時期からともに長く演劇をやってこられて、加藤さんはオペラの演出も多くなさっていて、串田さんも音楽を大きな要素として演劇の中に取り入れておられる。音楽と大きく関わりながら演劇をなさってきたこのお二人が、今回オペラ「ちゃんちき」で加藤さんが演出、串田さんが美術・衣裳ということで一緒になさるこの機会に、色々なお話を伺いたいと思います。
「オペラ」というもの
加藤 サム(30年以上になる仲だしずっとこう呼んできたので今回も串田さんをこう呼ぶことにする)はボクにとって最も興味ある刺激的な演劇人だ。人間と人間の関係から出発する表現者でその関係を絶えず新しくしようと苦闘する。ボクはそれが表現の原則だと思う。サムの仕事を見て或いは立ち会って“成程、世界をそう見ると新鮮だな。こういう世界との付き合い方もあるか”と度々驚嘆させられてきた。ところで一方、最近ボクがオペラをその仕事の専らとしているのを見て“何でオペラなんだろうな?”とからかわれたりもする。勿論ボクは諸手をあげて安心してオペラをやっているわけでは決してない。同時代的表現としてのオペラは可能か?なんて生真面目に主張し続けてどうやらどこかで苦笑されてもいるらしい。だがともかく今オペラを愛するということはそう簡単ではない、という処から始めるのは無駄ではないだろう。それは何よりも現在(いま)を考えてなければならないし現実(そこ)からオペラを創り出すことが第一だからだ。サムは音楽を大事な要素としていつも演劇を創ってきた訳だが、オペラに於ける演出家の音楽との関係の持ち方は、色々あるだろうがこれはもう厳しいものがある。どうやってオペラを愛していこうかと苦悶している時、オペラに抵抗感を持つサムを強引に引き込んで共働作業をしてみたいと思えた動機はそんな処にあるかもしれない。おまけにサムは「劇場」が大好きだしね。オペラほど劇場的な表現はない訳で。
串田 外国の優れたオペラを見るとその表現の素晴らしさに驚かされることもあるし、オペラを楽しむ雰囲気がつまらない、ということではない。ヨーロッパの近代以前に出来上がったものを味わいたいから、現代でも(オペラという)一つの虚構の中に入っていく、という楽しみがあるのは分かる。