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第二幕 第一場 はげやま

「えんやらやあの、やあ」とかわうそ夫婦が、今夜は自分達が御馳走になろうと禿げ山を登って来る。おとっさまとぼうは空を睨みはじめた。かわ兵衛とおかわは、空を睨んでいるおとっさまとぼうを見つけ「昨夜の女子衆の玄関番に雇われてござる人にちぎゃあにゃあ」と声をかけるが狐の親子は知らん顔。途方にくれるかわうそ夫婦に、おとっさまは「今夜は空守役を言いつかったで、こうして上の方ばかり見とらなあかん。誠に申し訳なきゃあことじゃが、今夜のところは何とか堪忍してちょう」と言うとまた知らん顔。かわうそ夫婦はまた出直すかと帰っていった。

さて翌晩、今夜こそとかわうそ夫婦がやって来た。狐の親子は今度は下ばかり見ている。「今夜は運悪くも地守役を言いつかってなも。ほで、今夜も帰ってちょう」と追い返す。さすがのかわ兵衛も禿げ山の古狐に化かされたと気付くが、あとの祭り。

親子は大はしゃぎで「ちゃん、ちゃん、ちゃんちき」と踊り出す。その時、雪が降りはじめた。厳しい冬の到来だ。

 

第二幕 第二場 みずうみ

雪の降りしきるなか、美人が一人立っている。狐のおとっさまである。かわ兵衛が姿を現すと「あの時はよう、失礼しましたわなも。許してちょう」と詫び「氷の中をどうやって魚を取っとりやぁすか、教えちょくりゃあせんかなも。今度はわしらが招ばんならんで」と頼みこむ。かわ兵衛は万事お見通しで「草木も眠る丑満時、夜中の湖、真ん中に穴掘って、おんぼろ入れてそのまま動くな。夜が明けりゃおんぼ引け、魚がぞろぞろついてくる。ただし動けば獲物は逃げるぞ、冷てやけれども動かぬこっちゃぞ」と教えてやる。

さて、草木も眠る丑満時、おとっさまは湖の真ん中にやって来て、教えられた通り穴を開け、冷たいのを我慢して尻っぽを垂れた。やがておとっさまを探してぼうがやって来る。夜も明けてきた。ところが尻っぽを引いてもびくともしない。「おんぼが氷にはりついてしもうた。こりゃ、えりゃあことになってしまったわや」

そこへ「狐だ、狐だ、親子もろとも引っくくれ」と人間の群が襲いかかる。ぼうの悲鳴を聞いたおとっさまは、自分の尻っぽをひきちぎりぼうを救い出して、やっとのことで逃げのびる。

「他人を信じると、どえらな目に会うちゅう教訓を目のあたりに見せてやったんじゃ」と強がりを言うおとっさま。おとっさまを気遣うぼうは、肩を貸して穴に帰ろうという。「たわけ、わしらの穴はかわうそたぁが知っちょるがや」禿げ山の穴に帰ることも出来ぬ。「ほなら、わしが穴熊の穴を奪いに行って来るわ。ついでに獲物も持って帰るでここで待っとれや」ぼうが立ち上がった。「よう言うた。気いつけて」親子は顔を見合わせ、別れを告げた。

「この吹雪に自分一人の獲物を探すだけでも容易では無やぁに。わしがいつまで待っちょれると思っちょるのか。ああ、これで足手まといが巣立ったわや。−思えば、春、秋、月日の流れに棹さして…」とおとっさまは歌う。やがて降りしきる雪の中、おとっさまは目を閉じた。

 

 

 

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