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このオペラは、民話の形をとっていますが、内容は人間の持っている現代にも共通した色々な問題を扱っています。例えば、親子の対立−断絶と言っても良いでしょうか−の問題、それから親子の理解の問題。人間が生きていくコミュニティの問題。色々な問題をとぼけた顔の中に全部内蔵しているオペラを作りたかった。ですから、この作品をちょうど東欧の崩壊の直前に、二期会の海外公演としてハンガリー、ルクセンブルグ、東ドイツ等で公演した時に、やはりヨーロッパの人も同じようにその内容を非常に感じてくれました。

―ヨーロッパ公演は1989年でしたね。

團 ドレスデンのゼンパー国立歌劇場でもハンガリーの国立オペラでも、みな100年以上の伝統がありますが、大成功でした。この上演の経験で、このあとのオペラの作曲に対して非常に大きな影響を僕自身が受けました。というのはつまり、ヨーロッパではオペラの受け取り方というものが確立しているわけです。日本では、どうもまだ歴史が浅いので確立されていない。つまり単なる一イベントだと思ってしまったり、流行的なものだと思ってしまったりする。僕はオペラというのは人間の持っている根源的な存在理由というものを歌い上げる芸術だと思っているので、それが確立している国でこの「ちゃんちき」の内容がはっきり受け取られたということで、その後にも自信を持ってことにあたれるようになったんですね。

「ちゃんちき」は民族的なフォルクロアというものの衣をまといながら、中は現代の人間が詰め込まれているオペラです。

「ちゃんちき」の後の「素戔鳴(すさのお)」「建・TAKERU」も古事記、日本書紀に題材をとっていて、これこそ外側は極端に古い話ですけれども、やはり“現代の男”の宿命を歌っているわけです。

―團さんのオペラには男が主人公のものが多いですね。

團 「ちゃんちき」あたりから、主役がバリトンになってきているんですね。むろんソプラノも重要な役で出てくるけれども、だいたいが声としては男が大事ですね、僕のオペラは。「夕鶴」にしても、“つう”が非常に大事ですけれども、それと人間との接点の“与ひょう”も重要です。「ひかりごけ」は全員男ですし。だからどの作品も、みんな主役のようなものだけれども、やはり男のオペラという感じがします。それは僕が男だからでしょう、きっと。

 

 

 

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