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―「ちゃんちき」では和楽器が入っています。

團 三味線と鼓が入ります。野性的な響きが欲しかったのです。日本の楽器の中で最も乾いた音がするものを選びました。三味線も鼓も西洋の楽器に比べると、非常にぶった切るような時を刻んでいく感じがするのです。ウェットなオーケストラに乾燥剤を入れたかった。西洋の楽器の音というのは大体横に流れていく、それを日本のリズムで刻んでいく、ということがとても鮮やかな対照だと思ったのです。さばさばして、べとつかない。そういう使い方をしています。

―オペラの題材を探すときには?

團 やはり、最初にこれをオペラにしたいと思うことが前提にあって、しかし“したい”というのをよく調べてみると、単なる花鳥風月だとか単なる男と女の恋愛事件というものは僕はとらない。オペラというものは、もっと重層的なものだと思っています。ただそうは言っても、オペラはやはり面白くないとどうにもならない。それから音楽が多彩でなければ。音楽の形式と戯曲の形式が完全にかちっと噛み合わないといけない。

―オペラには現代的なテーマを求めているのですか。

團 そうですね。だからこそ僕の中でオペラが一つの柱としてある。それからそういうものが芯にないと大きな作品というのは出来ないですよ。ただ面白い話だとか可哀相な恋愛事件だとか、そういうものでは何か大きなものが欠けてしまう。やはり思想というものがないと。それをかき立たせるものがないと。オペラ全体の中には文学的な要素が多いわけですから、その文学がどちらに向いているかということは非常に大切です。何を扱って、何を表現したいか、ということ。やはり現代というものを大切に考えると、どうしても皆の背負っているテーマ、というのは大事なのではないでしょうか。

―新しいオペラの構想は?

團 一つはどういうものであるか、題材は秘密です。もう一つは、めっぽう底抜けの明るい喜劇が書きたい。ドタバタではありませんが。やはりなんとなく悲劇的な色彩を帯びてしまうでしょう、オペラというものは。オペラ・セリアと言うように、もともと悲劇でなければオペラと言わなかったのですから。それに対してオペラブッファというのがありますね。諧謔的なオペラ。その面のもの−底抜けに楽しいもの、でも時代が経っても古くならないもの−をこの辺でひとつ書きたいと思っているんです。

―「ちゃんちき」は作曲から25年経ちますが。

團 でも不思議に「ちゃんちき」は古くならない。むしろ「ちゃんちき」の中に歌いこまれ、刻み込まれているテーマは今の方がますます大きくなっていますね。そういう理由もあって古くならないんじゃないでしょうか。

 

(2000年10月30日 横須賀の自宅にて)

 

 

 

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