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それはともかくとして、たまたま同じ課に本人の大学の先輩でもある、34歳の係長が、このままではよくないと心配をしてくれました。

本人は休んで、家に閉じこもっているだけの生活のようでした。もちろん、精神疾患ではありませんので、特に異常な言動や行動があったというわけではありません。

そこで、大学の先輩の係長は本人に電話をして、休むのはともかく、家にこもっていても、くさくさするだけだろうから、一緒に食事でもしないかと誘いました。本人もこの係長が大学の先輩でもあり、親近感をもっていたこともあって、某夜、誘われて、街へ一杯飲みに出かけました。少しアルコールが入ると気分もほぐれ、先輩に甘えるような気持ちにもなって、「どうも職場になじめない。こんなはずではなかったと思ったり、もう辞めようかと考えたりするのです。」と多少愚痴めいた訴えをしました。それを聞いた先輩は「そうだよな、おれも入ったころは、余り仕事も面白くないし、こんなことでいいのかなと思ったりしたよ。辞めて他の仕事を探そうかなと考えたこともあった。だけど、辞める勇気がなかった。別に他の人より昇進が早いというわけでもないけど、今では、これでよかったのかなと思っているよ。」などと話しました。何時間か一緒に過ごした後、「それじゃ、機会をみて、また一杯飲むか」と先輩に言われて別れました。

よく「目から鱗が落ちる」という表現を使いますが、本人は、普段あんなに生き生きと仕事をしている先輩も採用されたころはそうだったのかと思うと、もう一度頑張ってみようという気になったようです。

ただ、しばらく休んでいたので出勤するのが何となく気恥ずかしく、ためらわれたので、先輩に電話をしました。先輩は、「おれからも課長に話しておくし、思い切って出て来いよ」と言ってくれました。

翌日、出勤し先輩の係長と課長のところへ行き、休んだことをわびました。課長も「○○君の後輩だって、まあ元気出して頑張れよ」と言ってくれましたし、周囲もそんな悩みがあったのなら、一言いってくれればよかったのにと暖かい目でみてくれたこともあって、本人もすっかり元気を取り戻し、勤務できるようになりました。

 

 

 

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