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次第に気が重くなってきて、このような指導的な仕事は自分には向かないのではないか、期待して研修に参加させてくれた上司にもすまないという気持ちがつのってきて、職場に出勤するのもおっくうとなり、夜も眠りが浅く、食欲もなくなり、いわゆるうつ状態を呈するようになってきました。更に自責感がつのってきて、職場にも出勤できない、生きていても仕方がないとまで思いつめ、自殺も考える状況となり、夜、川のほとりを徘徊することさえ見られるようになりました。そこで、妻は医師に相談しなければと考えましたが、とりあえずは上司にこの状況を報告に行きました。

上司は、本人を呼んで、このようなことはそんなにすぐ成果が上がることではないし、もう少し肩の力を抜いて、ぼつぼつやればいい、一休みしても結構だし、どうしても辛ければ、よく知っている精神科の先生を紹介するよと言ってくれました。一応、精神科医を訪れ、上司に言われたことと同じようなアドバイスを受け、少量の抗不安薬の投与を受けました。本人は、薬よりも上司の言葉で、何となく気が楽になり、自分を振り返ってみる余裕が出てきて、はたで見ていても、随分落ち着いてきました。本来が、まじめな人ですから、少し休んでもいいよとは言われましたが、休まず出勤し通常勤務はこなしながら、研修に関することは自分なりに少しずつ整理して、慌てずに、業務全体に反映させようという気持ちになってきて、結果的には十分に目的を達するということになったのです。

 

考案

職場からの出張研修というのは、一つは命令的な意味合いもあるでしょうし、若い人の研修とは異なって、中堅職員の研修の場合には、自分自身の知識を増やすということだけでなく、研修の結果を持ち帰って、職場の業務土に反映させるという意味のあることが多いと思われます。それだけに、責任感の特に強い人の中には、そのことが大きな精神的負担になることがよくあります。

この事例のような性格傾向の人は、それが大きなストレスとなって、うつ状態、ひいては自責感から自殺さえ考えることがあり得ます。

 

 

 

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