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別のいい方をすれば、自殺事故の背景にあるものが、何であるかということを認識することが大切であるといえます。

精神疾患等の中で、最も自殺を起こしやすいのは、うつ病、うつ状態といわれています。

この病態は主たる要因によって、従来診断では、内因性うつ病、躁うつ性のうつ病、反応性うつ病、抑うつ反応などの病名がついたり、ICD10では、気分障害、うつ病エピソードなどの診断がつけられ、一部はすでに説明しましたが、自殺事故に関しては、特にどれが最も危険だとはいえなようです。中年期のメンタルヘルスのところで出てきたかと思いますが、退行期うつ病(更年期うつ病)といわれるものは、やや自殺率が高いともいわれています。

要因や背景が何であれ、うつ状態の示す、抑うつ気分、悲哀感、自己不全感などの症状から、自殺という行為にはしるものと考えられます。症状などについては前に述べた説明を参考にしてください。ただ、そうはいっても、自殺に至る心理的なものを十分に解明し、理解するのはなかなか困難であるともいえます。

精神分裂病者の自殺も少なくないとはいいますが、うつ病の場合とは少しそれに至る症状などが違うようです。幻覚や妄想に左右される場合があったりします。しかしこの疾患でもうつ状態を呈したり、生きていく意欲を失ったりすることは珍しくありませんが、精神分裂病の自殺はうつ病に比べれば数の上では少ないと思われます。

単なる神経症などでは、自殺事故に至ることはまれだと考えてよいでしょう。

急性ストレス反応とかPTSDなどによる自殺もあり得るでしょうが、診断名はともかくとして、それによって起こって来るうつ状態が影響していると考えることになります。

精神分裂病などよりは、人格障害といわれる人たちの自殺が、うつ病の次に多いとされています。人格障害については、別のところで少しふれることにしますが、著明な作家などの自殺者の中に、うつというより、アルコールや睡眠薬の常用などを含む人格障害者であったのではないかと思われる例があります。

 

 

 

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