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ただし、人格障害というのは性格の良し悪しということだけではありませんし、アルコールや薬物依存症に陥る人たちの中には人格障害と関係があるということも事実です。この場合も自殺に至る心理的なものにはかなり複雑なものがあると考えられます。

躁状態による自殺もまれに報告があることはあります。

身体的な疾患、特に癌とか難病を背景にして、自殺の気分が起こってくることもよく聞くところですが、このマニュアルの主旨からは少し外れるかとも思います。

自殺には、このような何らかの精神疾患等を背景に持つことが多いのですが、実際には自殺後に、本人のそれまでの状況をいろいろと調査してみても、原因のつかめないこともよくあります。一説では、自殺者の事後調査で、約三分の一は、なぜ自殺したのか分からないともいわれているようです。確かにわけの分からない自殺というのもあるようですが、もっともそれは、我々がその理由などをつかみきれないのだともいえるかもしれません。ある調査では自殺者のほぼ三分の一が何らかの精神疾患等、三分の一は身体疾患の悩み、三分の一は理由が不明ともいう結果が出ています。

一方で、特に労働災害の認定などで問題になってくることの中に、精神疾患等の特定できない自殺事故があることです。これは、なぜ自殺したのか分からないということとは少し違います。

業務過重、一般的にはストレスの存在が客観的にみても明らかで、過労状態、極端には疲弊状態に陥っていて、精神的に混乱あるいは錯乱に近いような状況で自殺事故に至ったという事例もあり、この場合、必ずしも、診断基準に基づいての精神疾患等がはっきりしないことがあります。衝動的と思われるような自殺にこのタイプが多いようです。過労自殺というような表現がされることがあるのもこのような点からでしょう。

もう一つ注意しておかなければいけないのは、俗に「荷おろしうつ病」といわれる型のうつ病で、職場の関係でいえば、一つのプロジェクトが完成した、懸案になっていた事項が無事に終了したなどの後にうつ状態をきたすことがあります。

 

 

 

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