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ロジャーズは、カウンセラーが相談者を最もよく援助する為には、相談者がその全人格を尊重されていると実感できる雰囲気がなければならないとしました。そうした雰囲気のなかでこそ相談者は自分に直面できるようになり、今まで自分に対して、また他人に対して、隠したり、ゆがめたり、拒否していた自分の行動様式、自分の考え、感情に対決できるようになるとしました。

ロジャーズはさらに、相談者がどんな内容を語っても、それらに対して無条件の肯定的な関心を向ける必要があるとしました。そして、そのことをロジャーズ自身は、「あなたは何を言ってもいいし、何をしてもいい、あなたが本当にあなた自身であるならば」と表現しました。このような人間関係は、実は日常では少ないように思えます。

日常生活では、ある種の行動をとれば関心をもってもらえたり、評価されるが、違う行動をとると罰せられたり、なんとなく相手を不愉快にさせてしまうからです。つまり、日常での関心の多くは、「条件付き」の関心なのです。しかし、「条件付き」の関心だけでは人の行動や感じ方は変化するものではありません。例えば、職場に対する不満を少しでも上司に話すと、攻撃されてしまう部下は、その不満をあらわにすることはできません。つまり、この関係では、「不満を言わずに仕事をすれば関心を向けてあげるよ」一方、「不満を言うなら攻撃するよ」といった「条件」が存在しているのです。一方、「どんなことでも聞こう、話し合おう」、「あなたが本当に感じていることだから、私には関心がある」という姿勢があってこそ、人は初めて安心して不満も言えるようになるのです。

このような配慮の基に、普段の関係では言えないことや、感じてはいけないと思っていることが言えるからこそ、人は本当の「実感」を探索することができるのです。例えば不登校の相談者に対して、学校に行かないことを責めても、それは、ほとんど意味をなしません。

 

 

 

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