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詩舞

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◎詩文解釈

この詩の作者が誰であるかは、諸説があっても決め手がないために“作者不詳”とされている。

詩文の内容は『太田道灌(江戸城を築いた室町時代の武将)が供の者も連れずに一人で馬に乗って狩に出かけた。ところが途中で大雨が降って来たので、とある茅茨(ぼうし)(かやぶきの家)の戸をたたいて蓑(みの)を借りようとした。

その家からは娘が出てきて、蓑ではなく八重山吹の一枝を恥(はじ)らいながらさしだした。娘はそのこ以外に言葉もなく、仔細(しさい)がありそうなこの花を見つめる道灌に対して、花も語りかけてくるわけがない。一体この花にどの様な意味があるのだろうかと、さすがの武勇優れし英雄も、このときばかりは心が乱れ、まるでもつれてしまった糸の様に解(と)くことが出来なかった』というものである。

ところでこの作品は、詩文には出てこないが、次の和歌がよく知られていることを前提としていることに注意しよう。

その和歌とは「七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき」という「後拾遺集(ぎじゅういしゅう)」に収められている中務卿兼明親王(なかつかさきょうかねあきしんのう)の歌で、八重山吹は花が咲いても“実(み)”がならないことから“蓑(み)”が一つもありませんとの事例を借りている。なお「後拾遺集」の言葉書(ことばがき)にも「小倉の家に住んでいた頃、雨の降る日に蓑を借りにきた人に、山吹の枝を渡して言う」とある。この少女は相当の和歌の知識があったのであろう、因みに太田道灌は、このことがあった後、発奮して歌道を極めたという伝説は有名である。

 

◎構成・振付のポイント

詩文中心に構成を考えると、まず起句は太田道灌が狩の途中で雨にあい、蓑を借りようとした。次の承句では少女に役変りして、山吹の花を持って現われ、道灌にさし出そうとする。転句は、少女が何も話さないというのでは構成上の展開が得られないので、詩文の意昧を置き替え、少女が引用した“七重八重”の和歌を抽象的に表現する。結句は再び太田道灌に役変りして、心の乱れを表現することになる。次に舞踊としての構成振付を考えると、もう少し演者の役の内容を明確にして置きたいと思う。

まず最も動きのある前奏から起句は馬に乗った振りで登場、狩や雨に対するリアクションを扇で見立て、藁屋(わらや)の戸をたたく迄を太田道灌の武人の振舞いで見せる。承句で少女に変るポイントは半回りして別の扇(山吹に見立てた黄色)を恥じらいながら坐って差し出し、いぶかる道灌に対して、別の扇に和歌を認(したた)めて見せ、続く転句は二枚扇で踊る。結句の太田道灌は、雨に濡れながら山吹の枝を見つめて深く考え込むが、扇にかかれた和歌を読んでハッと気づき、少女に一礼して馬で去って行く。年少者向きにわかりやすくしたい。

 

◎衣装・持ち道具

男(太田道灌)と女(少女)を演じ分けるが、基本的には男が中心だから、春の季節にふさわしい薄目の色紋付に袴を使いたい。持ち道具の扇は前項に述べた通りだが、作りもの(造花)の山吹が使えれば効果的だと思う。

 

山吹の里(錦絵)

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