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'01剣詩舞の研究 2] 幼少年の部

石川健次郎

 

剣舞「逸題(壮士軽命)」

詩舞「太田道灌蓑を惜るの図に題す」

 

剣舞

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◎詩文解釈

この作品は「壮士」の題名で呼きばれることもあり、気(き)、力(ちから)ともに盛んな武士の心意気を詠んだものであるが、作者は不明である。詩文の意味は『意気盛んな武士たる者は、命(いのち)を惜まず、手柄をたてるためには、只一騎でも自から進んで虜群すなわち敵の大軍の中に突入して相手をなぎ倒し、刀から流れ落ちる血をぬぐう暇もない程の働きをして、敵将の首を持ち帰り、直ちに我が将軍にささげようではないか』という勇壮な内容である。

「壮士」と云えば『易水送別』でよく知られている古代中国の荊軻(けいか)が、刺客として送り出された折に「壮士一(ひと)たび去って復還(またかえ)らず」と詠(よ)んだが、この荊軻の場合は再び生きて帰ることはない決死の覚悟が重苦しい悲壮感として描かれている。しかし本題の壮士は荊軻とは対照的に、非常に明るく自信に満ちた武士として勇壮な人物像を描いたほうが良い。

 

◎構成・振付のポイント

登場人物を明るい役柄を印象づけるため、前奏から派手なパフォーマンスで、例えば納刀のままの刀を左手に構えて持ち、馬に乗り早いテンポで下手から孤を描いて登場する。起句は詩文にとらわれず、次への移行のための振りとして、例えば刀の目利(めきき)、手入れなどで武人の心がけを見せて置く。承句はおっとり刀で敵陣に突入するが、立ち上るときのきっかけと、馬の扱いに振付の工夫が欲しい。転句からは所謂、斬って斬って斬りまくればよいわけだが、振付けのアクセントとして、激しい斬り合いの直後に詩文に従って、刀の血潮を拭おうとしたとたんに、再び敵将との斬り合いとなり、これを倒して勝どきを上げるといった段取りを見せる。

 

◎衣装・持ち道具

戦場に於ける武者のイメージとしては、黒か濃い色の紋付き、または稽古着に袴を着用する。鉢巻、たすさは振付けに従い効果的な使い方を考える。刀以外の持ち道具としては扇が馬の鞭や、敵将の首の見立てとして使うことがあるので、地味な無地柄のものを選べばよい。

 

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敵将の首を挙げた壮士(戦絵)

 

 

 

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