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訪問介護ステーション千代田から29]

 

訪問看護の楽しみ

訪問看護婦 池田洋子

早いもので21世紀になってから2カ月が過ぎました。私の担当している利用者のお宅では、梅の花が満開です(室内に置かれていることも影響していますが)。満開の梅の花を見ていると、寒い日が続いていても、ゆっくりと春は準備を進めているのだなと実感します。

以前もこの場で述べたかと思いますが、訪問看護で利用者のお宅に伺うことは、単に看護の技を提供するばかりでなく、ご利用者やご家族との思いがけないコミュニケーションが生まれます。

Tさんはパーキンソン病を患っている方です。40年ほど前からこの疾患に罹っていたようですが、発病当時は確定診断がつかず、検査のために何回か入院をされたようでした。Tさんは当時の入院生活中に日記をつけておられ、先日その日記を私に見せてくださいました。日記には日々の出来事ばかりでなく、Tさんが病院内で観察したことやTさんの気持ち、また医師や看護婦のことも書かれていました。ある日の日記に「今日は親友ができた。その人の名前はギヤマン国のシビンさんである」と書かれていました。私はTさんに「ギヤマン国のシビンさんてどこの国ですか。現在のどの国なのでしょうか」とお尋ねしました。Tさんはパーキンソン病のために、お話がスムーズにしにくい方なので、「ギヤマン国とはガラスのことです。ガラスのことをギヤマンというのです」とメモに書いて教えてくださいました。私は「ガラスの国のシビンさんて…???」。皆さんはすでにお気づきと思いますが、ギヤマン国のシビンさんとは、ガラス製の尿瓶のことです。それに気づいた瞬間、私は自分のまぬけな質問が恥ずかしいやら、おかしいやらで思わず大笑いしてしまいました。Tさんも大笑いをしていました。この日記を書いた日から安静が必要になったTさんは、床上排泄となったことをこのように書かれたのでした。安静となり、トイレヘ行くのも自由でないのは辛かったと思いますが、それをこのように表現して日記に残すTさんの一面を知り、またギヤマンがガラスのことだということを教えていただいたのでした。

Sさんは93歳の女性で、現在は寝たきりの状態ですが、お嫁さんから温かい看護を受けています。Sさんは江戸っ子で、お元気な頃は家業を支えながら家事をこなし、6人のお子さんを育てた方です。今はあまりお話をされませんが、時にはやユーモア溢れる会話や歌を聞かせてくださいます。その日はSさんのお嫁さんとの会話で、言葉遊びの話になりました。Sさんがお元気な頃に教えてくださったことだそうですが、江戸っ子の人たちは言葉遊びが上手で、話し言葉も粋だったそうです。例えば「日本橋に行ってくる」というのはどこへ行くことだと思いますか。私は「もちろん日本橋は日本橋ではないですよね。いったいどこですか」。お嫁さんは「トイレよ」「トイレ。なぜトイレなのでしょうか」「昔のトイレは単に穴があいていてその両端に足を載せる板が2本かけてあったから、2本はし、日本橋よ」。私「うーんなるほど…」

このような日常茶飯の会話から、ご利用者の暮らしぶりや過ぎ越し日々がしのばれて、これが一つの楽しさでもあります。

 

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