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虚血性心疾患予防への一臨床医の想い

高橋敦彦

日本大学医学部総合健診センター

 

虚血性心疾患というと馴染みのない方もおられることと思います。虚血性心疾患には狭心症、心筋梗塞があります。これについて説明いたします。心臓は全身に血液を送っているポンプの役割をしている臓器で、筋肉で作られています。筋肉が動くためには酸素や栄養が必要であり、心臓も心臓のまわりを冠のように取り巻いている冠(状)動脈から栄養を受けています。この冠動脈に動脈硬化がおこり、血液の流れが悪くなるために心臓の筋肉に充分な酸素や栄養が届かなくなることを虚血といいます。虚血があり体を動かした時(労作時)などに胸に痛みや圧迫感がおこるものが狭心症であり、さらに動脈硬化がすすみ冠動脈が完全につまってしまい、心臓の筋肉に血液が流れなくなるものを心筋梗塞と呼びます。心筋梗塞をおこすと心臓の筋肉が部分的に死んでしまう(壊死といいます)ためにポンプの力は著しく障害され、心不全をおこしやすくなったり、不整脈が生じたりしてQOL(quality of life)を害し、突然死の原因にもなります。

 

わが国の虚血性心疾患による死亡の現状

さて、ここでわが国の虚血性心疾患による死亡の現状について少し触れてみます。

表に1950-1997年の虚血性心疾患粗死亡率、年齢調整死亡率(人口10万人対)の年次推移を示します。この間、5回の国際疾病分類の変更があったことに加え、1995年にはわが国の死亡診断書の書き方が改訂されたこともあり、それまで「心不全」と記載されていた死亡診断書が減少し、かわりに「虚血性心疾患」の記載が増加したと考えられています。そのため、この表の数値は、人為的な増減が加味されており、単純に疾病の死亡率を反映しておらず解釈には注意を必要とします。年齢調整死亡率は、ある特定の年度(この表の場合1985年)の年齢人口構成にあてはめた場合の補正した死亡率です。表によりますと虚血性心疾患年齢調整死亡率は、1950年から1970年までは増加傾向にありましたが、1970年から1990年までは減少傾向を示していました。前述の理由により1995年に突然の増加が見られましたが、その後は再び減少傾向を示しています。この間、日本の人口構成は大きく変化し、超高齢化社会になりつつあります。多くの研究者は、日本の虚血性心疾患の増加は、人口の高齢化によるもので、虚血性心疾患年齢調整死亡率は現在減少傾向か横ばい傾向にあると考えています。しかし、この傾向は長くは続かないかもしれません。比較的若い世代は、脂肪の過剰摂取に伴う高コレステロール状態に長期にさらされており、運動不足によるエネルギー消費量減少による肥満が増加しています。つい最近、日本の高校生の血中コレステロール値が高いという報道がなされました。この世代が虚血性心疾患の好発年齢に達するとき、日本の虚血性心疾患の罹患率、死亡率が増加に転じる可能性が危惧されます。

 

米国での循環器病予防の取り組み

1949年に始まった東部のFramingham地区住民の長期の追跡調査をはじめとする数々の疫学調査をもとに、複数の虚血性心疾患の危険因子(リスクファクター)が明らかにされました。この成果をふまえて米国では官民体の予防活動が精力的に行われました。具体的には、1973年には米国上院栄養問題特別委員会が米国民の栄養の過剰摂取を警告したのに続き、生活目標の勧告、学童の食生活改善、テレビ等のマスメディアを用いた国民教育、食料品の内容表示などが挙げられます。こうした努力により、1940年から1966年まで増加の一途にあった虚血性心疾患による死亡は、1968年から1981年の13年間に実に32%の減少をみています。

 

健康日本21

わが国でも平成12年3月31日に厚生省から「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)の推進について」が各方面に通知されました。「健康日本21」は厚生労働省のホームページ(http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/top.html)上で全文が閲覧できるため、詳しいことは省略しますが、「はじめに」の一部を引用しますと「健康日本21は、新世紀の道標となる健康施策、すなわち、21世紀において日本に住む一人ひとりの健康を実現するための、新しい考え方による国民健康づくり運動である。

 

 

 

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