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これは、自らの健康観に基づく一人ひとりの取り組みを社会の様々な健康関連グループが支援し、健康を実現することを理念としている。この理念に基づいて、疾病による死亡、罹患、生活習慣上の危険因子などの健康に関わる具体的な目標を設定し、十分な情報提供を行い、自己選択に基づいた生活習慣の改善および健康づくりに必要な環境整備を進めることにより、一人ひとりが稔り豊かで満足できる人生を全うできるようにし、併せて持続可能な社会の実現を図るものである。」といったことが掲げられています。また、本文中には循環器病を含む幾つかの具体的な目標が示されています。しかし、実際には「健康日本21」は存在すら十分に周知されているとはいえない状況にあります。このプロジェクトはまだ始まったばかりで、実際に推進していく上では多くの困難が待っているかもしれません。「国民が主体的に取り組む健康づくり運動を総合的に推進していく」とされていますが、受身ではなく国民人ひとりがこれを充分に理解し、この運動を自らが能動的、積極的によりよいものに変えていくことが必要であると思っています。

 

おわりにかえて

私は、ここ数年間健診に携わってきましたが、企業の健診結果をみていますと虚血性心疾患の危険因子を複数持っておられる方が少なくありません。そして、個人の価値観、健康観もあるためか、長年染み付いた生活習慣の修正は、成人では極めて困難といえます。私は、虚血性心疾患を含めた生活習慣病の予防対策を成人になってから始めるのは遅すぎると思っています。「三つ子の魂百まで」ということわざがあります。これは、幼時の性質は一生変わらないものだということを表したものです。幼い子供には、親の価値観、健康観がそのまま反映されます。日本は確かに豊かになったかもしれません。しかし、国民一人ひとりが稔り豊かで満足できる人生を全うできるようになったかどうかは疑問に思います。せめて次の世代を担う子供たちが自らの価値観、健康観を形成し、自ら取捨選択できるようになるまで、正しい健康についての情報を与え、見守っていくのが私たちの役目ではないでしょうか。

 

注※:危険因子には、1]高コレステロール血症、2]高血圧、3]喫煙、4]糖尿病、5]心電図異常、6]遺伝的素因、7]肥満、8]身体活動の欠如や座りがちな職業、9]行動型Aタイプ、10]通風(高尿酸血症)、11]ストレスに満ちた状況、12]リポ蛋白異常などがあり、一部を除き生活習慣が大きく関与しています。

 

表 わが国における虚血性心疾患粗死亡率、年齢調整死亡率(人口10万人対)の年次推移、1950-1997年

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年齢調整死亡率は、1985年モデル人口を基準にして計算されている。なお、1995年以降については、「虚血性心疾患」の年齢調整死亡率は掲載されていないため、1995年と1997年の年齢調整死亡率は、田中らによるものを示した。

厚生省大臣官房統計情報部編:平成2年、7年、9年人口動態統計、上巻、下巻。

厚生統計協会、東京、1990、1995、1997。

 

《表》田中平三、吉池信男、横山徹爾、小久保喜弘、松村康弘、伊達ちぐさ、日本人における虚血性心疾患の疫学、日本内科学会雑誌 89:209-218、2000より

 

 

 

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