★在宅ケア情報の電子化
しかし、医師を含む各ケア担当者は手元に診療記録がないと不便です。不完全な一部分の情報で行動しては間違いが生じるとなると、他の情報をコピーしたくなります。となると複数の情報が各部で管理され“紙の洪水”になるでしょう。
これを解決する方法は電子化しかありません。患者さんの所にパソコンがあって、各ケア担当者が処置のたびにそれに入力する。そうして各関係者が(訪問看護ステーションからも含めて)これにインターネットでアクセスする。受診やデイケアセンターには患者さんが(IC)カードに入れて持参する。患者さんのお宅のパソコンで管理するのが困難であれば、医師会や訪問看護ステーション、また公共機関のセンターのコンピュータにまとめる。電子化すれば空間的距離は問題になりません。
この際、訪問看護のナースやヘルパーさんが携帯用の小型通信端末を利用することも現実に実用的な時代になっています。高齢の患者さん自身が容易に使用できる端末の開発も考えられています。近い将来携帯電話による動画の伝送も可能になれば、患者さんやスタッフが顔を合わせながら、さらに高度な心のこもったケアが地域的に可能になると思います。
●問題点と考察および結語
★問題点:患者さんのプライバシーが守られねばならないという問題があります。各関係スタッフが自己の便利や利益を越えて患者さんのためだけを目標に協力する必要があります。そのためには根本的な意識改革が前提となります。病院内での1患者・1診療録を実現するための最大の問題は技術的なことではなく、従来の分割管理に慣れた各スタッフの意識改革です。
★考察:“患者さんがパターナリズムから脱して、自分に関する情報を自分または家族で管理する”のがベストであることは容易に想像されることです。
将来というより本来的に、患者さん自身(およびその家族)による自分の情報の管理となると、患者さんの責任は増します。しかし人間である以上自分自身の“生命”に対する責任は最終的に自分でとらなければならないことを思えば当然ではあります。
現在、病院の診療録の患者さんへの開示が法令化され問題になっていますが(学問的なことは別にして)、患者さんの管理する診療録を必要に応じて医師が開示してもらうのが本当かもしれません。
★結語:ケアはそれを受ける患者さんとケアする側と両方があって成立することで、その共同作業です。ですから、双方が協力してその情報も管理しなければなりません。
最近、ケアプランのため、患者さんやそのご家族と一緒に医師、看護婦(士)、介護士、PT、OT、薬剤師、栄養士など全スタッフが集まってカンファレンスをするとき、患者さんを含む各スタッフの交わり中では、情報※2がみんなの共有のコミュニケーションツール(通信手段)であり、人格的交わりこそが主であることを強く感じます。
このような皆の信頼の中で、知恵と力を合わせて検討すれば、きっと明るい解決が未来に待っているという幸せな気がする昨今です。
※1 POS 1963年Dr. L. C. Weed(米国)によって提唱されたPOMR(Problem Oriented Medical Recond)問題志向型診療記録。日野原重明先生によってPOS(Problem Oriented System)という表現に簡略化し、広義に用いられた。
※2 インフォメーション情報 心のこもった報知(森鴎外の訳といわれています)