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「在宅ケアにおける情報の管理」について考える

北九州老人病院 松岡順之介

 

●はじめに(或る事例)

今年の1月4日のことでした。知り合いの某特養のA嘱託医から、ショートステイ中の105歳の患者さんが摂食拒否のためひどい全身衰弱にある。点滴を必要としているが特養では出来ないので急速入院させてほしいと電話がありました。特養のナースが付き添って来院し、当院で引き取りました。

しかし週に1回しか診察していない嘱託医の添書だけでは持参薬の内容等もはっきりせず、年来のかかりつけのB内科医に電話して病名、病歴、投薬名を伺いました。自分が知らない間に転院されたことにご不満の様子で書類はくださらず、口頭のみの情報でした。しかしなお不明な持参薬があり、再度電話したところ、それは「外科のC先生が出されたのでしょう」という返事でした。ここで初めて第3の医師が浮かび上がり、家族に依頼してその情報も入手しました。

患者さんの拒食は当院でも続きましたが、そのうち、関連の訪問看護ステーションのナースが、在宅時訪問していた医師会の訪問看護ステーションのナースから「ショートステイ入所時の対応が悪かったので拒食が発生した」という情報を入手しました。そこで、家族にきていただいて、スタッフ一同で家族の食事介助を見せていただき、その仕方で接すると拒否が解消しました。

この間私を含めて4人の医師、3(4)施設のナース、家族が関係していますが、その間の情報の連絡の貧弱さを今更のように痛感しました。

 

●患者情報の共有を

私は1981年、佐賀医科大学病院開設に当り診療録管理委員長(室長)の任に着き、日野原重明参与、(故)古川哲二学長が理想とされた“みんなで患者さんを診る病院を創ろう”は、「1患者・1診療録によって実現する」ことを提案し、学内の協力を得て“POS※1方式による全職種の時系列1患者・1診療録”を制度化することができました。

1人の患者さんの全情報は1つの診療録の中にあり、すべての学内スタッフの共有です。全人的医療の取り組みのためには、病院において1患者・1診療録は欠かせないことです。

これを通して今の我が国の医療でもっとも大事なのは情報の共有であることを知り、そのために私も努力してきました。

最近では、国立、公立の伝統ある病院がこれを実施することによって根本的改革を実現しています。本年1月からは、古い京都大学病院さえもがそれに踏み切ったのは画期的ですばらしいことです。

ところで、多くの障害をかかえる高齢者は、複数の医師やナースに関係します。訪問看護・介護を含む在宅ケアにおいて、1人の患者さんの全情報の把握はきわめて複雑で困難です。訪問看護のナースは親身になって世話してくれますが、直接指示を受けた医師以外の医師などとの連絡は、大変な困難が伴います。

 

●在宅ケアにおける情報の共有とその管理

★現状で考えられる方法

関係者が散在する高齢者在宅ケアの情報の一括管理の場所としては、現況では患者さんの所しかありません。自治体や健康保険組合が『健康手帳』を配布しているのはご存じだと思います。この機能を手帳ではなくレベルアップして診療録並みにすること、またよく訪問看護婦さんが家族やヘルパーさんとの“連絡帳”を患者さんの枕元においていますが、これに訪問診療の医師も(病院側の診療録だけでなく)積極的に記入したり、ファイルにする。もちろん患者さんもそのつど記入して病院や診療所受診のおりには持参して、医師にも記入してもらうことが必要です。最近、医薬分業となって自薬局の処方内容記載書を患者さんに渡すようになりましたが、それもこれにファイルする。これらを正式な患者さんの診療録とすることです。

 

 

 

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