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教育医療

Health and Death Education Sep.2000 vol.26 No.9

 

もてなしのこころを学ぶ

アメリカ・カナダ、ホスピス・音楽療法視察ツアーを通して

 

私は7月16日から9日間、医師2名、ナース2名、音楽療法士4名、ボランティア5名の総勢13名で欧米のホスピスと音楽療法の視察旅行に出かけました。

はじめの3日間は、米国のシアトル市を訪れ、その後6日間はカナダのバンクーバー市とビクトリア市に滞在しました。その間ホスピス5カ所、病院の緩和ケア病棟2カ所、子供のホスピス、エイズ患者のホスピス、癌センターなどを訪れ、ホスピスケアの実状とそれらの施設での音楽療法の実際を見学しました。

それ以外にも、癌患者のためライフ・ライン(いのちの電話)センター、西洋医学で不十分な領域の代替医療センター(東洋医学、マッサージ、気功など)なども訪れました。今、代替療法はカナダでも米国でもブームになっています。

ところで、私は過去に何度も欧米のホスピスや医療施設を見学していますが、この地には、本当にホスピスケアの精神が社会に深く根付いていることを感じます。私たちがバンクーバーで訪れたCottage Hospiceと、子供のホスピスCanuck Placeとは、どちらもすばらしい建物でしたが、これは市が歴史的建造物を買い上げ、内部を改造してホスピスとして提供しているというものでした。またDr. Peter Centerはエイズ患者のためのホスピスですが、これはエイズ患者となった医師が私財を投じてつくったというものでした。行政も個人もそれぞれができることを行動に移し、ホスピス精神を支えていることを、私たちはしっかりと学ぶことができました。

そしてどこの施設に行っても、暖かい笑顔ともてなしに出会いました。私たちのためにソフトドリンクやお菓子を用意し、分かりやすい資料を集め、ゆっくりと事業内容を説明してくださいました。

また米国でもカナダでも一人の案内役がその施設のすべてを説明するのではなく、案内された部門の担当者が説明するというシステムでした。各部門の人が来訪者に直接接することで、より実際に即した説明ができますし、現場の担当者が直接外部のニーズを知ることで、部門内の活性化に繋がるという効果があります。説明を担当した人は、来訪者へのプレゼンテーションが上司へのPRにもなりますし、同時に力量も問われるという厳しい面もあります。

この暖かいもてなしのこころと、客観的評価をいつでも受け入れようとするオープンな精神も、私たちはもっと見習わなければなりません。

ところで、今回の旅では、私の旧知の方々が、最高のもてなしで一行を迎えてくれました。私は施設の方々や友人たちからの心のこもったもてなしを受けながら、さまざまな思いにひたりました。

究極的にいえばホスピスケアの精神というのは、与える喜びであり、それは無償の行為です。そしてこの与える喜びがあればこそ、心のこもったもてなしができるのだと思います。聖句には「旅人をねんごろにもてなせ」という言葉がありますが、この地ではそれがそのまま具現されていることを肌で感じ、ここちよい充実感の中で実りある旅を終えました。

私たちの社会も、この与える喜び、もてなしのこころをもっと深く学ぶ必要があるようです。このこころがホスピス精神です。

 

LPC理事長 日野原重明

 

 

 

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