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私が育った頃の日本はとても貧しくて、それで国民は一生懸命働いて、物質的にはこんなに豊かな国になったのです。しかしこれからの私たちは、本当の豊かさとはどういうものかを後世に伝えていかなくてはなりません。大切なのは、人のために何が自分に出来るのかという気持ちです。私はよく講演で、閻魔様はこの人を極楽へ送ろうか、地獄へ落とそうかをこの人が生前自分のために使った時間が長いのか、人のために使った時間が長いのかを秤にかけて決めると話します。本当に大切なのは、お金や名誉ではなく、与えられた時間をどう使ったかということです。

私は、26年前にLPCを設立した時、これからの医療を変えていくのは一般の人の力だと思いました。おしきせの医療ではなく、人のための医療こそが本来の姿です。そのためには、日本の医療をもっとレベルアップしなければならないと痛感し、医療者への卒後教育と、一般の人への健康教育を始めたのです。以来、一般の方へは血圧の自己測定の普及、生活習慣病予防のための栄養学や運動学の普及、病歴の書き方、家庭介護講座やヘルスボランティア講座、また死の教育などさまざまな普及活動とその教育に携わるボランティアの育成をしてきました。今まさに日本は健康ブームといえます。しかし、もう一歩踏み出して、自分や家族、友人の受けている医療や福祉に参加することを考えていかなくてはなりません。出された薬の作用、副作用、また今受けている治療は何のために、どのような効果があるのか、患者も学び選択し、またリスクもあることを知る必要があります。そのためには、医療者側の情報開示も必要です。今の医療は、一般の受ける側の人たちが声を大きくして発言していかなくては変わっていかないのです。勇気をもって歩を踏み出すことが、次の世代への橋渡しとなるのです。

 

身近なところからボランティアを

今は全国のあちこちで、市民によるホスピス設立運動が起きています。皆がボランティアで、手持ち弁当で、それでもいきいきと活動しています。自分らしく生きている人は、本当にいい顔をしています。人が心と体を健やかに保つのは、知識だけではだめなのです。またよく生き甲斐といってがむしゃらに仕事に打ち込む姿をみかけますが、これも健康的とはいえません。ボランティア活動は、人間を本来の姿へと導く活動です。人の痛みを感じ、その痛みを分かち、自発的に手を差し延べることです。自分以外の何かのために、自分の時間を提供することです。目標を持っている。行動を起こす。無償でやる。外国ではこれが徹底しています。これが分かると明るい生き方につながります。

ボランティアという考え方はキリスト教だけでなく、仏教にも『7つの施し』というのがあります。

1. 目で施す

2. 笑顔で接する

3. 優しい言葉

4. 他人のために働く

5. 感謝

6. 他の人に席を譲る

7. 人に食事を与える

というもので、これはまさにホスピスケアそのものです。

これを、今ボランティアをする時間のない人も、家庭の中で実行してください。子供は親を見て育ちます。子供は次世代への橋渡しです。親の行動が何よりの教育になります。音楽、自然などよい環境の中で、十分に感性を高める情操教育も必要です。

21世紀には、医療も福祉も区別がなくなることでしょう。ひとり一人が健やかに生きるために、医療や福祉がどう機能するかが考えられていくことでしょう。そのために皆さんひとり一人に与えられた時間をどう使うかが、21世紀への橋渡しの鍵となることを心に留めて、今日はご家庭でもこのことを話しあってほしいと思います。

 

この川崎ボランティアフォーラムの運営にあたっては、多くのボランティアの協力がありました。公演中は川崎市社会福祉協議会の協力を得て、手話通訳や要約筆記ボランティアの方たち、受付や冊子の販売には川崎ヘルスボランティアの会、LPCボランティア、LPCのサポートグループなどがご協力くださいました。また、『白ゆり』、『ポコアポコ』によるボランティアコーラスもあり、参加者の方々にもボランティア活動がより身近に感じられたことと思います。

多くの方のご参加とご協力に深く感謝申し上げます。

 

 

 

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