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「こんなこともあります。施設では、毎年バスを借りて伊豆や箱根に一斉に旅行へ行っていました。しかし、本来の旅行は行きたいときに、行きたい場所へ、行きたい人と行くものです。施設ではこれまで長年続けてきた一斉旅行は取りやめて、ボランティアの助成予算を組みました。この助成金を使って、昨年11月、初めて3人の利用者と3人のボランティアが沖縄旅行へ行きました。帰ってきて、その一人に何が一番楽しかったかと聞くと、初めて自分で旅行会社の人に旅行代金を払ったことだというのです。この方は沖縄も飛行機も初めて、自分で計画して旅行するのも初めてという人なので、別の答えを期待していたのですが。そういう普通のことが、彼らにとって一番楽しいことだということを考えた時、施設としては善意でしていたことが、彼らの自発性をみごとに切り捨てていることもあるのです。」

先生は「障害者が普通の生活を送るという意味でのノーマライゼーションの実現はまだまだですし、社会的なバリアにも少し穴を開け始めた段階です。ボランティアを必要としている障害者がいること、そして誰もがわずかな時間と労力で、特別な資格や技術がなくてもできるということがご理解いただければ幸いです。」と締めくくられました。

 

ボランティア体験発表から

福島正美さん かざぐるま(朗読)・オブリガード

ともしび(視力障害者支援)

福島さんは、視力障害者に対する理解が一般の人には足りないとおっしゃいます。視力障害といっても、全盲の人と弱視の人がいます。真ん中が見えて周囲が見えない、またその反対、昼間の光彩障害などさまざまなのだそうです。また人生の中途から失明される方もいます。40歳になってから失明される人がとても多くなっていますが、そうすると手の平がざらざらとして、点字が読みとりにくいという問題もあるとのことでした。

「ある時、中年の女性のガイドで美容院へ行きました。すると店の人は、悪気はないのでしょうが『いつもはひとりでくるのに』と言われました。これは視聴覚障害者の気持ちを理解していません。視聴覚障害の方は、外へ出ると、それこそ全身を耳にしています。常に危険に身をさらすというストレスを受けているのです。皆さんも目を閉じて、道端に立ってみると、その端を理解できると思います。ガイドがいればその間だけでも、安心していられるのです。ですから、たとえば障害者が信号で待っていたら声をかけてほしいと思います。盲導犬を連れていても、犬は色盲ですから、信号を見て動くのではなく、人の動きを見て動くのです。障害者にもいろいろな人がいますから、人によっては嫌な顔をされる場合もありますが、その時はたまたま相手が悪かったと思ってください。健常者にもそういう人はいるのです。障害者は命の縮む思いをして道路を横断しているのだということを理解して、めげずに声をかけてほしいと思います。」

福島さんは、現役のサラリーマンで、14年前から休日を利用してボランティア活動を始めたのだそうです。介助や朗読、また視聴覚障害者を理解してもらうために、小学校へお話しにも行くなど幅広い活動をしていらっしゃいます。

 

大野千鶴子さん ピースハウスホスピス

秦野市ガイドヘルパー(障害者支援)

さくら(民間宅老所)

大野さんはピースハウスホスピスでの活動を中心にご発言くださいました。ピースハウスでは環境整備、ナイトケア、患者さんの話し相手のほかにも特技ボランティアとして、美容、運転、キッチンでの活動などさまざまあります。また曜日ごとのユニークな活動や、音楽療法の一環としてティータイムコンサートなどが開かれています。そのほかにも四季の行事にあわせたお祭りでのお手伝いなど多種多様です。

「患者さんの心は一定ではありません。今笑顔をつくっていた方が、ちょっとしたことでごきげんが変わることもあります。体調のこと、精神的なこと、社会的また家庭的な立場、さまざまな原因が考えられます。しかし私たちボランティアは、そのような患者さんやご家族の気持ちに添うそういう思いが大切だと思います。」

 

ボランティアマインドで拓く医療と福祉の明日

日野原重明 講師 (財)LPC理事長

今日のテーマに使われているボランティアマインドというのは、ボランティアの心ということです。ボランティア活動が明日の医療を拓くということです。医師や看護婦といった医療者ではなく、皆さんの働きにかかっているというお話をしたいと思います。私たちが今生きているのは、将来への橋渡しのためです。21世紀が今よりもっと、生きていてよかったと思われる時代になるように、橋渡しをしなければなりません。

 

 

 

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