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たとえば薬の副作用かもしれないと思ってもそれを医師にはなかなか言えない。そんなことを言ったら怒られるのではないか、手を引かれたらどうしようと考えてしまうわけです。しかしこれでは専門職として自立しているとは言い難いのです。つまり自分の立脚点は患者か医師かが問われています。

訪問看護婦やヘルパーは患者さんや家族の生活のもっとも近いところにいるので、問題をいち早く発見する立場にあります。むろん何でも薬の副作用と片付けるのでなく、自分で調べたり、わからないことを医師や薬剤師に相談する。そのような具体的な問題を通して勉強するのです。専門職としての自立には、責任と研鑚を積むことが求められているのです。

それから、高齢者の医療の中心的な課題は慢性疾患といわれますが、高齢者においても医療の役割は急性疾患の治療が重要です。脳梗塞が再発したり、糖尿病に心筋梗塞が併発するように、慢性疾患は常に急性変化する可能性をもっています。在宅介護をしている家族がもっとも頭を悩ませている問題の一つは、肺炎や骨折が生じたときに入院治療を引き受けてくれる病院はあるかということです。ところがいわゆる老人病院は急性疾患を治療する機能をもっていません。それは一般病院や総合病院が当たることになっていますが、そこは麻痺や痴呆のある高齢者の介護についての体制を備えていないのです。

看護は介護を包括しているといっても、若い人と違って高齢者は肺炎や骨折でも、食事から排泄、更衣、入浴などすべての生活行動にサポートを必要とします。転倒により骨折するかもしれないので歩行介助も必要になります。その上、せん妄が生じると、夜中に興奮したり点滴の注射針を抜いたりする。こうなると、生命の問題に直結する身体的な治療と看護で精一杯なのに、精神症状までみていられないと、手足を縛ったり、精神安定薬を大量に使って鎮静しようとするわけです。

 

 

 

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