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昔の精神医学の本では、せん妄、もうろう、アメンチアと、状態像によって言葉を使い分けていますが、最近は英米の概念によって、軽い意識障害と、いまいったようなさまざまの精神症状を伴う状態をすべてせん妄というというようになってきています。そのほうが臨床的に合理的だからです。というのは、意識障害があると、ある時期は幻覚がとても強く、ある時期は眠っているだけ、そしてしばらくすると運動性の興奮が強いというように症状が揺れ動きます。その一つ一つに、これはせん妄だとか、アメンチアだとかいってみても意味がないのです。

せん妄の代表的なものは振戦せん妄です。これはアルコール症の離脱症状(禁断症状)として知られています。アルコール症の人が骨折で入院すると、動けないので禁酒したのと同じですから、突然壁に蛇がいるだとか騒ぎ立てます。ある都立病院で豚が襲ってくるといって騒いだ大工さんがいましたが、その人は40年以上も、仕事が終わると毎日お酒を1升飲んでいた。ところが骨折で動けなくなって振戦せん妄が出たのです。

振戦せん妄の定型的な症状は、手の震えと自律神経症状(異常な発汗や発熱など)です。そして、蟻や蛇などの小動物幻視と不安、精神運動性興奮です。高齢者の場合には、このような激しい形ではなくて、夜中におかしくなる夜間せん妄が生じるのが特徴です。

 

慢性期の症状

損傷に対する生体の反応が整備されるにつれて、損傷の影響は限局化され、固定化されます。この時期が慢性期です。

固定化した状態が欠落症状で、その欠落症状が全体的な精神機能の障害であれば痴呆です。全体的な障害でない場合、たとえば失語症は限局性の欠落状態ですが、それを神経心理学的症状といいます。

 

 

 

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