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せん妄

 

1) 脳損傷の臨床

痴呆を理解するためには、せん妄の理解が不可欠です。せん妄を理解していなければ、痴呆も、うつ病や妄想などの心の異常も理解できません。

 

急性期の症状

せん妄は高齢者の精神症状や異常行動の鍵概念です。せん妄が理解できると、いろいろな問題が整理できます。そのためには、そもそも脳の器質性の疾患、つまり脳損傷の臨床から話をしていきましょう。

交通事故や脳梗塞によって、脳に損傷が生じたときには、まず急性期の昏睡状態や錯乱状態が生じます。急性期の症状とは、扁桃腺炎を起こしたときの全身的な反応、つまり、発熱や、食事もとれない、全身倦怠感などの症状と同じです。脳では損傷が、部分的であろうと、大きな損傷であろうと、精神機能の統制は崩壊してしまいます。意識障害とは、精神機能の統制が解体した状態です。

そのもっとも重いものは昏睡状態で、これは一見してわかります。むずかしいのは軽い場合で、寝ぼけにたとえられます。声をかければすっと反応するけど、しばらくするとまた意識が混濁する。これには昏蒙状態や、傾眠状態といわれるいろいろなレベルがあります。

この軽い意識障害に幻覚とか、妄想とか、精神運動性興奮といわれる落ち着きのない多動状態、家族もわからない人物誤認や、場所や時間がわからない見当識障害などを伴うとせん妄といいます。

せん妄状態では患者さんは心理的に非常に不安で困惑が強いので、この点が対応上の重要なポイントになります。

 

 

 

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