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老年期の精神症状、異常行動について

 

1) ボケといわれる問題

盗られ妄想

家族や私たちが混乱させられるのは、精神症状や異常行動です。

端的な問題として、高齢者や痴呆老人の心理と精神症状を理解するのにわかりやすいテーマは「盗られ妄想」です。財布が見当たらない、貯金通帳がないというと、嫁が盗ったなどと訴え始めて、警察に届けたり、大事なものを風呂敷に包んで近所に預かってもらう。この妄想は、高齢者の妄想の中ではもっとも多く、他の年代にはあまり見られないものです。私が初めて高齢者の医療や福祉の現場に入ったときに、最初に当惑したのがこの妄想でした。臨床的な特徴は、第一に、自分の捜し物が見つからないとか、しまった場所がわからないということですが、見当たらないと、盗られたと即断します。別のところにしまったのではないかとか、誰かに預けたのかもしれないというような検証はない。即、盗られたと言い、○○さんが犯人だというように特定の人を名指す。これが第二の特徴です。ここが分裂病などの妄想と違うところです。

分裂病というのは、対象が特定されない。周囲全体が自分に迫ってくる、誰かが見ている、そういう体験です。世界全体が対象ですから、漠然としています。それに対して盗られ妄想の場合は、「嫁」だとか、「娘」だという特定な人です。そして、盗られて困ったということではなく、むしろ「あの人が盗った」と騒ぎ立てるという攻撃性が第三の特徴です。攻撃がこの症状の中核だというように理解しますと、それまでの行動はすべて理解できる。

 

 

 

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