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その上で「少し忘れっぽくなりましたね」と話しかけて、本人がだいぶ忘れっぽくなったと認めたら、「そのために生活上困ったことはありますか?」と聞いてみる。それに対して「困ったことはない」と答えたらアルツハイマー病を考えます。

血管性痴呆や一般的な老化現象では、問題が軽いわりに必要以上に「困った」とか、「恥ずかしい」と言います。自分の状況をきちんと認識しているためにそういう反応が出てくるのです。

この違いは、表面的なものではなく、疾患による本質的なものです。ですから、「忘れたために生活上困っていますか?」という質問は障害の質を見分けるためには有効です。病院に来るというのは、家族が困っているからですが、それだけの問題があるのに、本人はそれを認識していないという特徴を把握できます。

 

生活の場面から把握する

いままでお話ししてきたように、痴呆は生活行動のある断面から、全体的な障害であるかどうかがわかります。在宅の高齢者にかかわる場合には、痴呆については知能テストで何点だったとか、痴呆スケールで何点だったというより、生活の行動を具体的に把握するということが大切なのです。

その人の病状経過をみる上でも同じことがいえます。食事を自分で作っているかどうか。いまはやっていないなら、いつまでやっていたか、いつから作らなくなったかです。買い物はどうしているか、趣味のサークルや稽古ごとはどうかとか、新聞やテレビを見ているか、お風呂に入っているか、着替えはしているかといったような個々の生活について丹念に聞くことで、その人の痴呆の状態をリアルに把握できます。こういう具体的な細かな情報をきちんと積み重ねていくことが大事です。

たとえば、いつから痴呆が発症したかを知るには、私はいままでやっていた生活行動がいつ頃から崩れてきたかということを丹念に聞いていきます。たとえば年賀状をいつまでは出していて、いつからは出さなくなったということから、大体その間に発症しているとわかります。発症の時期だけでなく、症状の変化などについても私たちがずっと長期的にかかわっていく場合に、家族からの情報がきわめて重要です。生活行動の中に問題があるということをいつも念頭に置く必要があります。

 

 

 

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