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その特徴をみていると、たいていの場合、何キロも離れた遠い所で発見されます。新宿に住んでいた人が埼玉県の与野市で保護されたとか、世田谷の用賀の人が青梅で保護されたというように何十キロも先で、疲れ果ててうずくまっているところを発見されたというようなことは珍しくない。しかも、そういった方は、聞かれると自分の家の電話番号や、住所や名前を答えるので、家族のところに連絡が入って引き取られていく。

こうしたことからいえることは、本人が道に迷ったと思えば電話をかけられたはずであり、タクシーを拾って帰ることもできたはずです。あるいは交番へ行って道に迷ったというSOSを発すればそれで解決できた。ところがそれをしていない。疲れ果てるまでどんどん歩いている。つまり、本人は迷ったという認識がなく、住所とか電話など個々のことはきちんとわかっているにもかかわらず、それを利用していない。ここに徘徊という症状の本質があるわけです。そこをきちんと私たちは押さえておかないといけないのです。

徘徊をする人の特徴は、地誌的健忘だけでなく、自分の行動を点検したり、検証したりしないということです。ですから、行動の修正もできない。したがって、はるか遠くで動けなくなって保護されることになる。私たちは道に迷うと、近所をウロウロしたり、あるいはもとに戻るか、さもなくば近くにいる人に尋ねるかしますが、痴呆の人はそれを一切やっていないのです。単に近所の地理がわからないというだけでなく、自分の行動を状況を見て判断したり、間違っているのかもしれないと検証して修正するようなもっと高度の精神的な機能が障害されているのです。単に道に迷うのが痴呆なのではなくて、道に迷ったのではないかという検証ができないというのが痴呆の本質なのです。

 

 

 

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